超伝導

磁気浮上の写真

 上の写真は、ある高校で行われた超伝導磁気浮上実験の写真です。この写真を手がかりにして、どうことをすればこんな現象がみられるのか調べてみましょう。

  • 浮いているものはなに?

  • 下の土台はなに?

  • 周りでもやもやしているものはなに?

 この実験のために必要なものは何でしょうか?図書館へ行って本を探してもいいし、インターネットを使ってもよし、先輩に教えてもらっても良いです。実験をするには漠然とした情報では役に立たないので、できるだけ詳細について調べましょう。

超伝導体試料の作製

 本実験では固相反応法によりYBa\(_2\)Cu\(_3\)O\(_7\)の焼結体(セラミック)を作製する。原料はY\(_2\)O\(_3\)、BaCO\(_3\)、CuO(純度はいずれも3N)の粉末を用いる。

試料の作製

  1. 原料粉を原子数比でY:Ba:Cu=1:2:3の割合になるように秤量し、総量をおよそ5gとする。酸素は焼成中に大気との間で出入りするので、秤量時に考慮する必要はない。

注釈

原料粉が湿気を帯びると正確に秤量ができなくなるので、取扱には十分注意し、秤量も手際よく短時間で終えること。また、毒性のあるものも含まれているので、決してふざけて口にしたりしてはならない。秤量時に生じる原料粉のあまりも一般ゴミに混ぜることなく、定められた回収瓶に捨てること。

固相反応法は原料を溶融させずに、固体(粉末)のまま、原料粉表面から反応させるものであり、反応の際、原子レベルで原料が混じり合っているわけではないことに注意すべきである。したがってより品位の高い試料を作製するためには、(1)原料粉の粒径をより小さくすること、(2)原料粉をできる限り均質に混ぜること、の2点が特に重要となる。よって、焼成の前に十分に混ぜ、すり潰す必要がある。本課題では時間の都合上仮焼きの回数・時間を少なくせざるを得ないので、その代わり混ぜ合わせの時間を1時間程度と長めにする。混ぜ合わせは乳鉢と乳棒で行う。

  1. 混ぜ合わせた後、原料粉をアルミナのセラミックボートに入れて、電気炉内中央やや上に出ている熱電対の近くで900 \(^{\circ}\)C約2時間仮焼きする(仮焼き1)。仮焼き後はセラミックボートを炉の中に入れたまま電源を切って自然冷却する。1回目の仮焼きが終わったら再度、乳鉢と乳棒を用いて混ぜ合わせ、前回と同様の条件で仮焼きを行う(仮焼きII)。

注釈

YBa\(_2\)Cu\(_3\)O\(_7\)の焼結体を固相反応法で作製する場合、不純物相としてY\(_2\)BaCuO\(_5\)という緑色をした絶縁体ができることがある。仮焼きの際は試料に緑色のものが混入していないかどうか注意深く調べ、もし混入していた場合はその程度に応じて、最初からやり直したり混ぜ合わせや仮焼きの回数・時間を増やすなどの処置が必要になる。

  1. 2回の仮焼きが終了したら、油圧装置および試料成形シリンダー(直径8 mm)を用いて錠剤型(ペレット)に成形する。この際、磁化率測定用(厚さ約 3mm)、電気抵抗率測定用(厚さ約0.5 mm)の少なくとも2つのペレットを作ること。次にこれらのペレットを前述のボー一トに入れ、930 \(^{\circ}\)Cで約2時間焼成する(本焼き)。焼成後温度を下げる際、試料中の酸素欠損を補填するため、450\(^{\circ}\)Cで数時間焼きなます(アニール)のが望ましい。

注釈

試料成形シリンダーの上下には、直径約6 mmの円板を置く(図7)。各々の中心がシリンダー軸の中心にくるように圧力をかける。印加した状態で十数秒保持し、その後減圧する。その際の圧力は約100 kgf/cm\(^2\)以内にとどめること。これ以上かけると器具が変形・破損する恐れがある。また、圧力印加の際には、手などを挟まないように細心の注意を払うこと。

  1. 焼結が終わったら、得られた試料を液体窒素に入れて十分冷却し、強力磁石(Nd-Fe-B系)の上にのせ、試料の評価をする。もし試料が超伝導状態になっていれば、磁石から出る磁束を排除しようとして、反発し浮上するはずである。もし浮上しなかったら、試料作製が失敗であったこと意味する。どこに失敗の原因があるかを検討した上で、試料作製の適当な段階まで遡って作製し直すこと。

注釈

銅酸化物高温超伝導体は概して湿気に対して脆く、取扱に注意を怠ると分解する可能性もあるので、試料は必ず青いシリカゲルの入ったデシケーター内に保存すること。また、測定などで冷却したのち、試料に霜がつかないよう注意すること。もしついた場合はドライヤーで速やかに乾燥させること。

問題

 固相反応法の仕組み、試料を作る場合の注意点とその理由、それを怠った場合に起こり得る試料品位の低下について述べよ。

超伝導現象

 金属に電場を印加すると電流が発生する。電位差と電流はオームの法則と呼ばれる比例関係にあり、その比例係数が電気抵抗である。金属の電気抵抗は、伝導電子が金属中の静的(不純物、格子欠陥など)あるいは動的(格子振動、スピン揺らぎなど)欠陥から移動を妨げられる度合いを表す。通常、温度の低下とともに動的欠陥は抑制されるので、それにともない金属の電気抵抗は徐々に減少してゆく。

 ところが金属の中には、ある有限温度で突然竃気抵抗が消失するものがある。これが超伝導現象であり、その温度を臨界温度Tcという。この現象は、1911年にオランダのH.Karnerlingh-Onnesによって水銀で初めて観測された。その後多くの単体金属、合金、化合物で超伝導が確認され、現在では金属が低温で普遍的にとり得る安定相の一つと理解されている。本章では超伝導体の基本的性質とその微視的機構について簡単に説明する。詳細は章末の参考文献を参照されたい。

電磁気的性質

 零抵抗という現象があまりにも劇的であるため本質を見失いがちであるが、超伝導体は単純な完全導体(電気抵抗0の導体)とは異なる。超伝導の本質はむしろ完全反磁性にある。完全反磁性とは、磁束を内部から排除する、すなわちB=0であることを言う。この現象は1933年にW.MeissnerとR.Ochsenfeldにより発見されたので、現在ではMeissner効果と呼ばれている。

_images/fig2_mei.png

超伝導(完全反磁性)状態における磁束の排除

 磁束密度(B)と磁場(H)との関係は、透磁率および磁化率を用いてSI単位系で以下のように表される。

\[ \begin{align}\begin{aligned}B &= \mu H = \mu_0 (H + M)\\M &= \chi H\end{aligned}\end{align} \]

より

\[B= \mu_0 (1 + \chi) H\]

ゆえに

\[\mu = \mu_0 (1 + \chi)\]

超伝導体の内部では、 \(B=0\)\(H \neq 0\)\(\mu_0 \neq 0\) なので、 \(\chi =-1\) となる。

ただし、磁束を排除すると言っても完全ではなく、表面からある有限の長さ程度磁束が入り込む、あるいは、常伝導(Pauli常磁性)状態から超伝導(完全反磁性)状態への移行領域が存在する。その長さスケールが磁場侵入長λである。電流は磁場を生じさせるが、超伝導電流はこの表面領域を流れ、それにより完全反磁性と完全導電性を両立させている。

 次に、超伝導状態と常伝導状態での自由エネルギー収支を考えよう。完全反磁性という性質は、いわば磁針を無理やり南に向かせるようなもので、磁気的エネルギーの点で損失を生み出す。その損失は \(dF = - \mu_0 M dH\) より

\[F = - \mu_0 \int^H_0 M dH = \frac{1}{2} \mu_0 H^2\]

と評価される。したがって、磁気的エネルギーを損失してまでも超伝導状態になるのは、超伝導状態になることによって、磁気的エネルギーの損失を補って余りある、何らかの熱力学的エネルギーの利得があるからであると考えられる。その利得が何かは1.4で述べるが、仮にその利得をΔとすると、上述の完全反磁性によるエネルギーの損失がその利得\(\Delta\)に等しくなるところで超伝導が壊れて常伝導に戻ることになる。このときの磁場を臨界磁場Hcと呼ぶ。つまり

\[\Delta = \frac{1}{2} \mu_0 H_c^2\]

である。超伝導はある有限の温度牲およびある有限の磁場\(H_c\)、以下でなければ実現され ないのである。

_images/fig3_ph.png

超伝導体の状態相図

問1「完全導体」と「完全反磁性体」との違いを磁気的性質の観点から述べよ。

問2 London方程式 \(\vec{j} = - \frac{1}{\mu_0 \lambda^2} \vec{A}\) から完全反磁性を説明せよ。また \(\lambda = \sqrt{\frac{\varepsilon_0 m c^2}{n q^2}}\) を導け。

巨視的量子効果

超伝導現象は、量子力学による微視的説明がなされており、現在では巨視的量子効果と総称される現象の典型例とみなされている。そこでは、本来微視的概念である量子力学的波動関数の「波動」としての性質が巨視的な物性の前面に出ている。以下に示す二つの現象はいずれも、超伝導状態を記述する波動関数の位相が物性を支配する実体あるものとして顔を出しているものであり、超伝導体の著しい特徴の一つである。

Josephson効果

 超伝導体一絶縁体薄膜一超伝導体からなる接合(SIS接合)に超伝導電流が流れる現象。1962年にB.D.Josephsonにより理論的に予言され、1963年にP.W.AndersonとJ.Rowellによって実験的に確認された。

磁束の量子化

 超伝導体でできたリングに捉えられる磁束の大きさは不連続的であり、\(\Phi_0 =h / 2e \cong 2.0678×10^{-15} T/m^2\) (T:tesla、1T= \(10^4\) gauss)の整数倍になる。\(\Phi_0\)磁束量子 という。ここで \(2e\) であることに注意されたい。後述するCooper対の形成を意味する。1961年にB.S. DeaverとW.M.Fairbank、およびR.DollとM.Nabauerにより最初に観測された。

第1種超伝導体と第2種超伝導体

 超伝導を特徴づけるパラメーターとして磁場侵入長\(\lambda\)を挙げたが、もう一つのパラメーターがコヒーレンス長\(\xi\)である。コヒーレンス長は熱力学的自由エネルギーの観点から見た、常伝導から超伝導への移行に要する距離である。境界から\(\xi\)の距離を経てそれより内部で完全な超伝導性が実現される。超伝導体は、磁場侵入長\(\lambda\)とコヒーレンス長\(\xi\)の大小によって第1種(\(\lambda < \xi\))と第2種(\(\lambda > \xi\))の2種類に分類される。

 1.1における自由エネルギーに関する考察から、第1種で表面エネルギーが正、第2種で負になることがわかる。表面エネルギーが負ということは、超伝導一常伝導の界面があるほど全体のエネルギーが低下し安定化されることを意味し、それ故、第2種超伝導体では有限の磁場(\(H_{cl}\))で磁束が磁束量子の単位(渦糸)で入り込み、超伝導と常伝導が共存する状態(混合状態)が現れる。磁場の印加とともに常伝導状態の割合が増し、全てが常伝導状態になったところ(\(H_{c2}\))で常伝導状態へ転移する。\(H_{c1}\)\(H_{c2}\)をそれぞれ下部臨界磁場、上部臨界磁場と言う。第2種超伝導体の中には、\(H_{c2}\)が10Tを越えるものもあり、超伝導マグネットなどに応用されている。

_images/fig4_kai.png

第1種超伝導体と第2種超伝導体の磁化率

代表的な超伝導体の臨界磁場

物質

\(T_c\)

臨界磁場(Oe)

種別

Al

1.196

\(H_c \sim 99\)

第1種

Pb

7.193

\(H_c \sim 803\)

第1種

Nb

9.23

\(H_c \sim 1980\)

第1種

Nb3Sn

18.3

\(H_{c2} \sim 2.45 \times 10^5\)

第2種

YBa2Cu3O7

93

\(H_{c2} \sim 1.2 \times 10^6 (H_{||c}), \sim 7 \times 10^6 (H_{||a})\)

第2種

問3 \(\Phi_0\)\(\lambda\)\(\xi\)を用いて、H\(_1\)、H\(_2\)を見積もれ。

微視的機構一一BCS理論一

 金属の単純化したモデルの一つが、伝導電子系を縮退Fermi気体とみなすSommerfeldモデルであろう。そこでは電子はPauliの排他率に従いエネルギーの低い準位から順に占有してゆく。最高被占準位がFermi準位である。通常の電子数(\(\sim\)10\(^{23}\))では、準位のエネルギー分布は連続的とみなせ、かつFermi準位では多くの準位が縮退している。波数空間において、占有された準位と占有されていない準位とを分かち、無限小のエネルギーで励起されうる準位を多数持つ、縮退等エネルギー面をFermi面と呼ぶ。このFermi面の存在こそ金属の本質である。このSommerfeldモデルにより、電気伝導性、比熱、Pauli常磁性など、金属の多くの性質が統一的に説明される。

 多数の軌道が縮退したFermi面は外的な摂動に対して不安定であり、それが金属の示す多彩な物性の原因となっている。超伝導もその一つである。1957年、J.Bardeen、L.N.Cooper、J.R.Schriefferの3人は、電子間に何らかの引力相互作用が働けばFermi面は不安定になり、電子は対(Cooper対)を形成して新たな安定相一超伝導相一へ転移する、と提唱した。これがBCS理論の概略である。2つのFermi粒子で構成されたCooper対はBose粒子とみなせ、超電気伝導性はBose凝縮によるCooper対の超流動と理解される。また、1.1で述べた超伝導転移に伴う熱力学的自由エネルギーの利得は、このCooper対の結合エネルギーに、そして前節で述べたコヒーレンス長はCooper対の大きさに、それぞれ相当する。

 ここで引力相互作用は特に限定されたものではなく、その意味でBCS理論は普遍的であると言えるが、通常金属ではフォノン(格子振動のエネルギー量子)の交換に拠っている。このような、Bose粒子を媒介にFermi粒子間に相互作用が生じる現象は一般的なものであり、中間子(Bose粒子)を媒介に陽子(Fermi粒子)間に引力が働く(湯川理論)のもその一例である。

フォノンの交換による場合は、次のような直感的説明もなされる:電子の負電荷は周囲の格子(正電荷)を歪ませるが、電子の動きに比べて格子の動きは鈍いために、電子が去った後も格子の歪みが残り、正に帯電した状況が作られる。その正電荷に別の電子が引き寄せられ、実効的な電子間引力が生まれる。

 このBCS理論により、超伝導の基本的性質一完全反磁性、零抵抗、Josephson効果、磁束の量子化一は全て説明され、長らく謎とされてきた超伝導現象は一応の解決をみた。BCS理論は現在では最も基本的な超伝導の理論的枠組みと考えられている。超伝導現象は純然たる量子力学の世界であり、発見から解決まで半世紀近く要したのも、発見当時の状況を考えれば当然のことであろう。

問4 Fermiエネルギー\(\epsilon_F\)を電子密度\(n\) を用いて表せ。

問5 Sommerfeldモデルにより、電子比熱を導け。また、エネルギー等分配則から見積もられる値に比べて小さくなる理由を簡潔に述べよ。

銅酸化物高温超伝導体

 超伝導の発見以来、より高い臨界温度を持つ超伝導体の探索が活発になされた。しかし、1970年代後半に発見されたNb3Geの23 Kを最高に、臨界温度の上昇は頭打ちになった。BCS理論では臨界温度を

\[k_B T_c \cong 1.13 \hbar \omega_D \exp{(-\frac{1}{N(0)V})}\]

(\(\omega_D\):Debye周波数、N(0):Fermi面での状態密度、V:引力ポテンシャル)

と予測しており、フォノンを媒介とする限り高々30K程度で限界ではないかとの悲観論さえ漂い出した。このような状況を打ち破ったのが、スイスのJ.G.BednorzとK.A.Mifllerである。彼らは1986年にLa-Ba-Cuの酸化物で30K以上の超伝導の可能性があると発表した。その後、同様の銅酸化物で次々に臨界温度の記録が塗り替えられ、1993年にはA.Shillingらによって133Kの臨界温度を持つHgBa2CaeCu30sが発見されるに至った。

 図5に、代表的高温超伝導体であり、本実験での研究対象でもあるYBa2Cu307の結晶構造を示す。この物質は人類が初めて手にした液体窒素温度(77.4K)を越える臨界温度Tc(93K)を持っ超伝導体で、1987年にアメリカのM.K.Wuらによって発見された。本物質は、優れた超伝導特性一高い臨界温度と鋭い超伝導転移一を示すことから、基礎・応用両面から様々な研究の対象とされてきた。特に、液体ヘリウム(沸点4.2K)に比べて安価な液体窒素を冷媒に使用できることは、応用上の可能性を大いに高めている。

 銅酸化物高温超伝導体の特徴はCuO2面と呼ばれる2次元的なユニットにある。このCuO2面は、回りのユニットの静電状態に応じて、その電子状態を変えてゆく。電荷キャリア(正孔、あるいは電子)が存在していない、すなわちCuの形式価数が+2である、CuO2面をもつ物質を母物質と言う。母物質に、化学的(あるいは物理的)手段によってキャリアを注入すると、すなわちCuの形式価数を+2からずらすと、

反強磁性絶縁体(母物質)→高温超伝導金属→非超伝導金属

と状態が変化する(図6)。固溶限界等の理由で、どの高温超伝導体でもこれらの三相全てが実現する、というわけではないが、上記の相変化は全ての物質について共通の性質であると考えられている。高温超伝導は、ある適当な数のキャリアが注入されたCuO2面を舞台にして発現するのである。

YBa2Cu307\(_y\)では、CuO-一次元鎖レイヤーの酸素量によりCuO2面のキャリア濃度が制御される。母物質はYBaceCu306(y=1)で、このときCuO2面のCuは+2価、CuO一次元鎖のCuは+1価である。酸素量とともにキャリア濃度が増えてゆき、y\(\sim\)0.5以下で高温超伝導金属、y\(\sim\)0で最高の臨界温度(93K)を示す。酸棄量はたかだか7までにしかならないため、この物質では非超伝導金属相までは実現できない。通常、特別な雰囲気鯛整をしない限り、酸素量が7近くで酸素欠損を含んだものになるので、結晶学的には酸素量を6+xではなく7-yと、酸素欠損量で表記する。本文中で酸素量7といっても、実際はy\(\sim\)0.05程度の欠損が存在する。

 これまでに高温超伝導体でもCooper対が形成されていることが実験的に確かめられているが、電子間に働く引力相互作用についてはまだ確定していない。より高い臨界温度を持つ物質の探索とともに、"銅酸化物でなぜこのような高い臨界温度が実現されるのか"という根元的疑問の解決に向けて現在も精力的に研究が続けられている。

表2 超伝導臨界温度最高記録の変遷(銅酸化物高温超伝導体発見以降)

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YBa2Cu307の結晶構造

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高温超伝導体の電子相図

電気抵抗率の測定

測定原理

 電気抵抗率の測定は、試料と端子の間の接触抵抗や導線の抵抗による影響を排除できる点で2端子法よりも優れた4端子法で行う。

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(a)4端子法、(b)2端子法

 図はa)4端子法、b)2端子法それぞれの回路図である。ここでは簡単のため導線の抵抗を無視し、接触抵抗を全て1箇所あたりrとする。電圧計の内部抵抗を\(R_0\)、試料および電圧計に流れる電流をそれぞれ\(I\)\(i\)として、実際の測定で得られる電圧計の電圧\(V_{\rm measure}=R_0i\)と求めるべき試料での電圧降下\(V_{\rm sample}=RI\)とを比較しよう。

 4端子法では\(RI=(2r+R_0)i\)であり、\(R_0 \gg r\)ならば\(V_{\rm sample}=V_{\rm measure}\)が成り立つ。本実験で電圧降下の測定に用いるデジタルナノボルトメータ(Keithley2182)の内部抵抗は10G\(\Omega\)以上であり、また接触抵抗は1\(\sim\)10\(\Omega\)程度であるので、\(R_0 \gg r\)の条件は十分に成り立っている。

 一方、2端子法では(\(R+2r\))\(I\)=\(R_0 i\)であり、\(R_0 \gg r\)ならば正確な測定ができるが、金属や超伝導体のようにRが小さくなる場合には\(V_{\rm sample} \neq V_{\rm measure}\)となる。

 試料の温度が均一でない場合は、温度勾配から試料中に熱起電力\(V_T\)が発生し、誤差を生み出す。しかし、熱起電力は温度勾配だけに依存し電流の向きにはよらないので、測定の際、電流を反転させてそれぞれの電圧降下を測定すれば相殺することができる。

\[ \begin{align}\begin{aligned}V_+ &= R \cdot I + V_T 順方向\\V_- &= R \cdot (-I) + V_T 逆方向\\(V_+ + V_-) /2 &= V_T\end{aligned}\end{align} \]

 試料に流す電流は定電流源(AdvantestR6144)で任意に設定できるが、ジュール熱により試料や端子が発熱しないよう、精度よく測定できる範囲内で小さい方がよい。本実験では、試料の電圧降下V\(_{\pm}\)がおよそ0.1\(\sim\)1.0 mV程度になるよう調節する。温度は磁化率測定と同様、銅・コンスタンタン熱電対を用いて測定する。熱起電力はデジタルマルチメータ(AdvantestTR6851)で読みとる。測定した試料の抵抗は抵抗率で表すこと。

\[\rho(T) = \frac{R(T)S}{l}、S:断面積、l:電圧端子間の距離\]
_images/fig15_free.png

金属における電荷キャリアの伝導(概念図)

 自由電子気体モデル(Drudeモデル)で、金属の電気抵抗率は、

\[\rho(T) = \frac{m*}{ne^2\tau(T)}\]

と表される。ここで、\(n\)は電荷キャリア数密度、m*は有効質量、\(\tau(T)\)は散乱時間である。 つまり金属では、電荷キャリア数は温度によらず、散乱時間の温度依存性で抵抗率の温度依存性が決定される。

_images/fig16_Cu.png

銅の有効質量、衝突時間、及びキャリア数

測定方法

 この実験では、直流定電流源を用いた簡便な回路(Figure.4)を用いて、液体窒素温度から室温までの直流電気抵抗率を測定する。以下に具体的な手順を述べる。

_images/fig17_measure_res-eps-converted-to.png

電気抵抗率測定回路

  1. 焼成したペレット状の試料(厚さ約0.5 mm)を紙やすり(1000番程度)を用いて矩形に成形する。大きさは試料ホルダー(Figure.5)に入る程度であれば任意であるが、配線のしやすさや測定精度を考えると\(3\times1\times0.5\) mm\(^3\)程度の細長いものが望ましい。電流密度は試料に流す電流値を試料の断面積(上述の試料では\(1\times0.5\) mm\(^2\))で割ることで決定する。そのため、成形終了後に試料の幅と厚さをノギスで計測しておく。

  2. 成形が終わったら、電流端子(試料の両端)と電圧端子(試料中央付近の2点)の接触抵抗を低減するために、インジウムを超音波はんだごてを用いてはんだ付けする。電圧端子のスポットは小さいので、こて先を直接試料に当てないで、縫い針を介してスポットをはんだ付けする(Figure.5(a))。はんだ付けが終わったら、一度テスターで接触抵抗を確かめる。3\(\Omega\)程度以下であれば問題ない。この後、電圧端子間の距離をノギスで測っておく。試料の全長を測っても意味がないことに注意せよ(Figure.5(b))。

  3. インジウムはんだ付けの後、試料を両面テープで試料ホルダーに固定する。この際、ホルダーや覆い(いずれも銅製)に試料が直接触れないように注意する。

  4. 試料の固定が終わったら、Figure.5(c)に示すように、直径30 \(\mu\)mの金線を常温固化銀ペースト(DuPont4922)で結線する。銀ペーストは溶媒(酢酸ブチル)で適当な濃度に溶き、細い銅線の先に付けて接合箇所に垂らす。銀ペーストを垂らしすぎて端子間を短絡させたりしないこと。

  5. 結線が終了したら一度テスターで接触がとれているか確認する。数\(\Omega\)以下であれば問題ない。うまくいっていたらこの段階で一度室温の抵抗率を測定する。次に銅製の覆いを被せてからもう一度測定する。両者の値が著しく異なる場合は、覆いを被せる際に短絡あるいは断線した可能性もあるので、もう一度覆いを外し、点検する。問題なければ、この段階で電気抵抗率の電流依存性をできる限り広い電流値の範囲について調べよ。オームの法則は成り立っているか?

_images/fig18_setting_res-eps-converted-to.png

試料取り付けの要領

 以上の作業が無事終了したら、液体窒素を入れたクライオスタットに、試料ホルダーを徐々に沈め、降温させてゆく。徐冷の過程で、室温から液体窒素温度までの電気抵抗率を測定する(温度間隔は1\(\sim\)2 K程度)。測定は、(1)定電流源で+Iを流す、(2)熱起電力を測定、(3)試料の電圧\(V_+\)を測定、(4)定電流源で-Iを流す、(5)試料の電圧\(V_-\)を測定、(5)再び熱起電力を測定、を1サイクルとし、測定温度は2回の温度計測の平均を採用する。この際、起電力の反転が明確かどうかを確認する。試料の電圧降下が0.1\(\sim\)1 mV程度になるよう、電流値を調節する。1サイクルの測定間で温度変化が激しい場合(\(\Delta\)T\(>\)1K)は、試料ホルダーを適当な位置まで引き上げ、再度測定する。試料ホルダーが液体窒素に近づくと激しく温度が低下するので、注意を要する。なお、測定は転移温度付近を詳細に測定すること。液体窒素温度まで低下したら、再び、電気抵抗率の電流依存性を調べよ。

熱電対による温度計測

 実際の熱電対は、接点の経時変化や熱電対自身の品位などにより、いつも起電力表通りの熱起電力を示すわけではない。温度を算出するには熱電対の較正を行う必要がある。本実験では、2つの基準点(液体窒素温度77.35 Kおよび氷点273.15 K)を用いた較正を行う。

 実際の熱起電力と理想的な(熱起電力表の)熱起電力を、絶対温度の関数としてそれぞれ\(V_{real}(T)\)\(V_{ideal}(T)\)とすると、\(V_{real}(T)\)\(V_{ideal}(T)\)の間は、ある関数関係で結ばれているはずである。この関数関係を1次式で近似するのである。つまり

\[V_{ideal}(T)=A \cdot V_{real}(T)+B\]

と、2つの定数A、Bを用いて表されるとする。

 あらかじめ温度の判っている参照体(この場合、液体窒素と氷水)に接したときの熱起電力、\(V_{real}\)(77.35)と\(V_{real}\)(273.15)、を測定すれば、あとは熱起電力表から\(V_{ideal}\)(77.35)と\(V_{ideal}\)(273.15)を読みとることで、A、Bについての連立一次方程式ができる。これを解いて較正定数A、Bが求められる。

 この際、注意すべきことが2つある。一つは、熱電対の状態が良ければ、A\(\approx\)1、B\(\approx\)0になることである。もし、著しく異なる場合は、熱電対に異常があるか較正定数を算出する過程に誤りがあるかどちらかである。もう一つは、接点の経時変化が最もあり得るずれの原因であり、したがって、もし接点を接合し直した場合などは、必ず較正をし直す必要があるということである。較正は測定の途中か終了した後、試料の着脱などをしないまま行うのが望ましい。せっかく較正しても、試料取り付けの際に熱電対の接合部を切断したり変形させたりしては、意味がなくなるからである。

熱電対の温度ー熱起電力(mV)校正表

t(℃)

-0

-10

-20

-30

-40

-50

-60

-70

-80

-90

-200

-5.603

-5.753

-5.889

-6.007

-6.105

-6.181

-6.232

-6.258

-100

-3.378

-3.656

-3.923

-4.177

-4.419

-4.648

-4.865

-5.069

-5.261

-5.439

(-)0

-0.00

-0.383

-0.757

-1.121

-1.475

-1.819

-2.152

-2.475

-2.788

-3.089

(+)0

0.00

0.391

0.789

1.196

1.611

2.035

2.467

2.908

3.357

3.813

100

4.277

4.749

5.227

5.712

6.204

6.702

7.207

7.718

8.235

8.757

200

9.286

9.820

10.360

10.905

11.456

12.011

12.572

13.137

13.707

14.281

300

14.860

15.442

16.030

16.621

17.217

17.816

18.420

19.027

19.638

20.252

400

20.869

交流磁化率の測定

測定原理

 交流磁化率の測定は基本的に相互インダクタンスの回路を利用している。簡単な相互インダクタンスの回路を図8に示した。交流発振器の側を1次側、相互透導により電圧の発生する方を2次側という。1次側のコイルはソレノイドで、単位長さあたりn\(_1\)(回/m)巻いてある。交流発振器から、電流I\(_1\)(A)(\(I_1 = I_0 e^{i \omega t}\))が流れると、1次側のコイル内には\(H=n_1 l_1\) (A/m)の磁場が生じる。

 このとき、2次側のコイルを通りぬける磁束は、コイルの断面積を\(S (m^2)\)とすると、\(\Phi _1 (Wb)= \mu HS\)となる。ここで、2次側のコイルには、\(n_2 l\)回(\(n_2\); 2次側コイルの単位長さあたりの巻き数(回/m)、\(l\); 2次側コイルの長さ(m)) [1]_だけ線が巻いてあるので、鎖交磁束としては、\(\Phi _{12} = n_2 l \cdot \Phi _1\)となる。Faradayの法則より、磁束の変化分が電圧となってあらわれる。すなわち\(V_2=d \Phi _{12}/dt\)となる。相互インダクタンス\((M_i)\)とあらわされる。

問7 YBa\(_2\)Cu\(_3\)O\(_7\)には異方性があるため、c軸方向に磁場をかけた場合と、α、b軸方向に磁場をかけた場合とで\(H_{c1}\)が異なる。α、b軸方向に磁場をかけた場合の\(H_{c1}\)は液体窒素温度でおよそ100 Oe(= 8000 A/m)である。\(10^4\) 回/mのソレノイドコイルに何Aの電流を流すと超伝導体内に磁束が入り出すか。

問8 相互インダクタンス\(M_i(H)\)を次の\(n_1\), \(n_2\), \(\mu\), \(l\), \(S\)を使って求めよ。

\(n_1\) = \(n_2\) = \(10^4\) 回/m, \(\mu = \mu _0 = 4 \pi /10^7 (H/m)\), \(l=5 \times 10^{-2} m\), \(S= 1.77 \times 10^{-4} m^2\)

またこのときに1次側の交流の最大電流が\(I_0=\) 1 mAならば2次側に生じる最大電圧 \((V_0)\)は何Vか。但し、用いる周波数は1kHzとする。

 以上のように、透磁率\(\mu\)の変化に伴い2次側の電圧\(V_2\)が変化する。\(\mu =\mu _0(1+ \chi )\)とあらわされるので図8の回路では、\(V_2 \propto 1+\chi\)となっている。従ってコイルに試料を入れると2次側の電圧から磁化率を知ることができる。これが、交流磁化率測定の基本的な原理である。

 真空の透磁率とは違い、試料の磁化は種々の要因により磁場に対する応答に遅れを生じる。これは、交流磁場に対して、位相の遅れとなる。例えば、振動する外部磁場

\[H=H_0 e^{i \omega t}\]

を磁性体に加えた場合、一般に磁束密度は

\[B = B_0 e^{i \omega t + \delta}\]

と表される。ここで\(\delta\)<0は位相の遅れを意味する。このような場合、透磁率\(\mu\)

\[\mu = \frac{B}{H} = \frac{B_0 e^{(i \omega t + \delta)}}{H_0 e^{i \omega t}} = \frac{B_0}{H_0}e^{i \delta} = \mu ' + i \mu ''\]

となる。ここに\(\mu ', \mu ''\)

\[\mu ' = \frac{B_0}{H_0} cos(\delta), \mu ''= \frac{B_0}{H_0} sin(\delta)\]

である。この\(\mu '\)\(\mu\)の実数部で\(H\)の変化に同位相で追随する\(B\)の部分を表す透磁率であり、\(\mu"\)\(\mu\)の虚数部で\(H\)の変化に対して\(\pi /2(90 ^{\circ})\)の位相の遅れで追随する\(B\)の部分を示す透磁率である。この時(2)式より\(\mu =\mu _0(1+ \chi )\)であることから、磁化率も透磁率\(\mu\)と同様に\(\chi = \chi ' + i \chi ''\)とおくことができる。すなわち、

\[ \begin{align}\begin{aligned}\mu = \mu ' + i \mu '' = \mu_0 + \mu_0 \chi ' + i \mu _0 \chi ''\\\mu ' =\mu _0 + \mu _0 \chi ' , \mu '' = \mu _0 \chi ''\end{aligned}\end{align} \]

問9 下図のように図8の2次側コイルを半分のところで逆向きに巻いた場合には、2次側の電圧はどうなるか。但し、1次側には、電流\(I_1= I_0 e^{i \omega t} (A)\)が流れており、1次側のコイルの単位長さあたりの巻数は\(n_1\)(回/m)、2次側の場合は\(n_2\)(回/m)、コイルの長さ\(l\)(m)、その断面積\(S(m^2 )\)とする。次に2次側コイルのうち1次側コイルと同じ向きに巻いた方に磁化率\(\chi\)の試料を入れると、2次側の電圧はどうなるか。さらに\(\chi\)\(\chi ' + i \chi ''\)として1次側の電流の位相と比べると\(\chi '\)\(\chi ''\)とは各々どれだけ遅れていることになるか。ちなみに\((-i)\)\(\pi/2\)の遅れに相当し、(-1)で\(\pi\)の遅れに相当する。

ロックイン増幅器

 交流磁化率を求める際に、ロックイン増幅器を使用する。ロックイン増幅器は、参照信号と同じ振動数と位相(phase)をもつ信号のみを増幅する装置である。したがってロックイン増幅器を使うときは、参照信号(ここでは交流発振器の信号)を増幅器に入れてやる必要がある。ロックイン増幅器の中では、図10のように参照信号を矩形としたもの(内部信号:b又はd)を入力信号(a)にかけあわせる。かけあわせた波形は、ロックイン増幅器のモニターからとりだし、シンクロスコープで見ることができる。内部信号と入力信号との位相のずれが0の場合には、図10のaとbをかけてcの波形がモニターに現れる。位相のずれがπ/2の場合には、図10のaとdをかけてeの波形が得られる。波形が飽和して頭打ちになっているようなら増幅率を小さくする。またロックイン増幅器の電圧計には図10中aの振幅の実効値(\(V_0/\sqrt{2}\))が表示される。位相のずれがπ/2のときは出力は0となる。このようにロックイン増幅器は入力信号の特定の周波数成分に対する検出能力を持つと同時に、特定の位相成分を選択的に検出する能力を持っ。

 実際の測定での波形は、c、eまたはその中間(図11)のようになる。図11の場合、ロックイン増幅器の電圧計にはbの振幅の実効値が表示される。

_images/fig10_rockin1.png

ロックイン増幅器の信号

_images/fig11_rockin2.png

ロックイン増幅器の一般的な出力信号

測定方法

 本実験では、互いにπ/2の位相差を持つ交流磁化率の2成分\(\chi '\),と\(\chi ''\)を、ロックイン増幅器により独立に測定する。実際には、試料を取り付けない状態でまず測定を行い(バックグラウンドの測定)、後に試料を取り付けて測定した結果からバックグラウンドを差し引きすることで、試料自体の磁化率を求める。こうすることで、測定系の不具合や測定系自体の磁化などによる誤差を取り除くことができる。

[バックグラウンド測定]

 測定系下部の覆い(銅製)を、内側のコイル管が壊れないよう、コイルの軸に平行にして丁寧に取り外す。銅・コンスタンタン熱電対の接点を、下側の2次コイル中央、すなわち下側から114程度の位置(コイル管の内部)に入れ、セロテープで固定する。覆いを被せて、ねじ止めする。図12のように配線し、熱電対の基準点側(白いテフロンテープで巻いてある)を、氷水で満たしたデュワーの中に入れる。温度はこの熱電対の熱起電力をデジタルマルチメーター(AdvantestTR6851)で測定し、後頁に掲載する起電力表を用いて算出する。ただし、測定の際には熱起電力の値をそのまま控え、温度の算出は熱電対の較正も含めて全測定が終了した後に行う。なお、熱電対の使用・較正法について後頁「熱電対による温度計測」にまとめてある。測定に際しては、装置の感度を考慮し、問7で求めた電流以下でなおかっ大きな電流を1次側に流す。原理的には問9で求めたように1次側電流の位相を基準にして2次側電圧を測定することでx’とx"とを求める。ここでは真空の透磁率が外部磁場に対して位相の遅れがないことを利用して位相を合わせる。以下に具体的な手順を述べる。

(1)液体窒素の入ったクライオスタットに測定系を浸し、液体窒素温度に冷却する。

図12交流磁化率測定回路

(2)ロックイン増幅器の増幅率(gain)を最小にする。温度が安定したら可変相互インダクタンスMi3(安藤電気No.51120)を、シンクロスコープ(菊水電気5041)で出力波形が見える範囲で、可能な限り大きくする。2次側の電圧V2は、次式で表される。

\[ \begin{align}\begin{aligned}V_2 &= \{R + i \omega (M_{i1} - M_{i2} + M_{i3})\} I_0 \exp{i \omega t}\\ &= \sqrt{R^2 + \omega^2 (M_{i1}-M_{i2}+M_{i3})^2} I_0 \exp{i \omega t + \phi}, \tan{\phi}=\frac{\omega(M_{i1}-M_{i2}+M_{i3})}{R}\end{aligned}\end{align} \]

ただし、Rは2次側回路を構成する導線の抵抗、\(M_{i1}-M_{i2}\)は図.9の回路で構成される相互インダクタンスである。このとき、\(M_{i3} \gg R\)とすることで、φ=π/2とできる。すなわち、V2の位相を1次側の電流\(I_1 = I_0 \exp{i\omega t}\)の位相に対してπ/2ずらすことができる。

(3)この状態でロックイン増幅器の位相を調整して、シンクロスコープ上で図.10eの出力信号が出るようにする。この操作で、ロックイン増幅器は、2次側電圧のうち、1次側電流に対してπ/2位相がずれた成分を選択的に検出できる状態になる。このとき信号の時間積分を行っているロックイン増幅器の電圧計は、理想的には0 Vを示している。有限の場合は、それが後に引き去るべきバックグラウンドとなる。ロックイン増幅器の位相はこれ以降決して変化させてはならない。変化させた場合は(2)からやり直す。

(4)可変相互インダクタンス\(M_{i3}\)を、\(M_{i1}-M_{i2}+M_{i3}=0\)になるよう、小さくする。すなわち、シンクロスコープ上でのシグナルの飛びを消し、平坦にする。この操作では\(M_{i3}\)の微調整が必要になる。その後、ロックイン増幅器の増幅率を大きくし、再びシンクロスコープ上でのシグナルの飛びをなくすよう\(M_{i3}\)の微調整を行う。この操作を繰り返し、増幅率を可能な限り大きくする。こうすることで、1次側電流に対してπ/2位相がずれたV2の成分の微小な変化、すなわち超伝導転移にともなう磁化の変化、を感度よく検出できる態勢が整うことになる。

(5)上述の調整が終了したら、測定系を少しずつクライオスタットから引き上げ、昇温させる。昇温が始まったら、(1)熱起電力、(2)シンクロスコープ上でのシグナルの飛び、(3)ロックイン増幅器の電圧表示、(4)そして再び熱起電力を記録する。これを測定の1サイクルとし、液体窒素温度(約77 K)から150 K程度まで磁化率の温度変化測定を行う(温度間隔は1\(\sim\)2 K程度)。超伝導転移付近(\(\sim\)90 K)は特に詳細に測定すること。測定 温度は前後2回の平均値を採用する。もし、1サイクルの間で大きく温度変化する場合(\(\Delta\)T\(>\)1K)は、測定系を再び適当な温度まで冷却し、測定し直す。

[試料の磁化率測定]

 バックグラウンドの測定が終了したら、測定系をドライヤーで温め、超伝導試料(厚さ約3 mm)をコイルの下側1/4程度の位置に取り付ける。熱電対の先端部にセロテープで固定すれば良い。この際、試料の厚さ方向をコイルの軸と平行にする。この一連の作業で、例えばロックイン増幅器の位相など、測定系の状態を変えてしまった場合は、バックグラウンドの測定が意味をなさなくなるので、再度バックグラウンドの測定からやり直すことになる。取り付けが終了したら、再び液体窒素に測定系を浸し、先程と同様に77 Kから150 Kまで温度変化を測定する。このときも、バックグラウンド測定の際と同じく、超伝導転 移付近を詳細に測定すること。この値から、先程測定したバックグラウンドの値を差し引くことで、試料自体の値が求まる。問9で求めたように、シグナルの飛び(の半分)が\(\chi '\)に比例し、ロックイン増幅器の電圧計の表示(の2倍)が\(\chi ''\)に比例する。参考として理想的な超伝導体における磁化率の振る舞いを図.13に示す。

図13超伝導転移にともなう磁化の温度変化

授業計画

  • 〈第1日目〉 全体ガイダンス

  • 〈第2日目〉 個別ガイダンス、できれば磁気浮上の実演

  • 〈第3日目〉 実験計画作成

  • 〈第4日目〉 実験計画作成

  • 〈第5日目〉 原料粉の秤量および混ぜ合わせ 仮焼き1

  • 〈第6日目〉 混ぜ合わせ 仮焼きII

  • 〈第7日目〉 混ぜ合わせおよびペレット成形 焼結(本焼き)

  • 〈第8日目〉 磁石を用いた反磁性評価 (失敗した場合は試料作製をやり直す)

  • 〈第9日目〉 実験予備日

  • 〈第10日目〉 実験予備日

  • 〈第11日目〉 実験予備日

  • 〈第12日目〉 レポート作成

  • 〈第13日目〉 レポート作成

  • 〈第14日目〉 レポート作成

  • 〈第15日目〉 プレゼンテーション

プレゼンテーションについて

 得られた結果に基づいて、以下の点についての考察・議論を行ってみてください。

  • 試料のできばえ

    自作した超伝導試料の品位について、電気抵抗率測定およびX線回折の結果に基づき議論せよ。特に、臨界温度が文献値(93K)と異なる点やゼロ抵抗にならない点について、その理由について考察せよ。また、転移の鋭さ(温度幅)についてもどうか。

  • 測定手段の特徴

    物性研究の試料を評価する手段として電気抵抗率、X線回折を見た場合、それぞれの特徴、長所・短所について考察せよ。さらには、こんな測定手段ならこんなことが分かっていい、などの意見。

  • 身近な超伝導研究について

    超伝導を材料として利用する例をいくつか調べてもらいましたが、それぞれの特徴、長所・短所について。

  • 演習を通した感想

    おもしろかったことと、もの足らなかったこと。自由に書いてください。

参考文献

超伝導現象についての代表的な教科書

[1-1] A.C.Rose-Innes and E.H.Rhoderick,Introduction to Superconductivity (Pergamon Press Ltd.,1978);島本進・安河内昂訳,超電導入門(産業図書,1978).

[1-2] M.Tinkham,Introduction to Superconductivity 2nd ed.(McGraw-Hil1,Inc.,1996); 初版については邦語訳がある:小林俊一訳,超伝導現象(産業図書,1981).

[1-3] P.G.de Gennes, Superconductivity of Metals and Alloys (Addison-Wesley Publish-ing Company,Inc.,1966).

[1-4] J.R.Schrieffer,Theory of Superconductivity (Addison-Wesley Publishing Company,Inc.,1964).

[1-5] 恒藤敏彦,現代の物理学17超伝導・超流動(岩波書店,1993).

高温超伝導についての総合報告(邦文)

[2-1] 福山秀敏・石川征靖・武居文彦,セミナー高温超伝導(丸善,1988).

[2-2] 固体物理・高温超伝導一物質,物性,理論一特集号,第25巻(アグネ技術センター1990).

[2-3] 内野倉國光・前田京剛・寺崎一郎,高温超伝導体の物性(培風館,1995).

物性物理学に関する代表的な教科書

[3-1] J.M.Ziman,Electrons and Phonons (Oxford University Press,1960);Principles of the Theory of Solids,2nd ed.(Cambridge University Press,1972);後者は邦語訳がある:山下次郎・長谷川彰訳,固体物性論の基礎(丸善,1976).

[3-2] N.W.Ashcroft and N.D.Mermin,Solid State Physics(W.B.Saunders Company, 1976);松原武生・町田一成訳,固体物理の基礎(吉岡書店,1981).

[3-3] A.A.Abrikosov,Fundamentanls of the Theory of Metals(North-Holland,1986);東辻千枝子・松原武生訳,金属物理学の基礎(吉岡書店,1994).

[3-4] C.Kittel,Introduction to Solid State Physics,7th ed.(John Wiley & Sons,1996); 宇野良清・津屋昇・森田章・山下次郎訳,固体物理学入門(丸善,1998)。

[3-5] J.S.Dugdale,The Electrical Properties of Metals and Alloys,(Edward Arnold Ltd., 1977);野口精一郎訳,固体の電気的性質(丸善,1979).

1

1次側のコイルの方が2次側コイルより長い場合

2

通常相互インダクタンスはMとして表記されるが、磁化もMを使うので、ここでは便宜上\(M_i\)とした。

レポート課題

 テキスト中の全ての問を解き、またテキストで述べられた全ての実験を行った上で、その内容についてまとめ、報告しなさい。なお、実験結果については、自らの結果に基づき以下の議論を行うこと。

1.自作した超伝導試料の品位について、交流帯磁率および直流電気抵抗率の結果に基づき議論せよ。特に、臨界温度が文献値(93K)と異なる場合や2つの測定手段で異なる場合は、その理由について考察せよ。また、転移の鋭さ(温度幅)についてはどうか。

2.物性研究の試料を評価する手段として交流帯磁率、直流抵抗率を見た場合、それぞれの特徴、長所・短所について考察せよ。

3.交流帯磁率の測定について。本実験では厳密に言えば超伝導体内部の磁束を排除する効果を観測していることにはならない。それはなぜか。(問1を参考にせよ。)

4.電気抵抗率の測定にっいて。その温度依存性や絶対値についてまとめ、銅(間10の結果)と比較せよ。この実験での結果が銅の結果と異なるのは何によるか、考察せよ。

問題

  • 「完全導体」と「完全反磁性体」との違いを磁気的性質の観点から述べよ。

  • London方程式 から完全反磁性を説明せよ。また を導け。

  • \(\Phi_0\)\(\lambda\)\(\xi\)を用いて、H\(_1\)、H\(_2\)を見積もれ。

  • Fermiエネルギー\(\epsilon\)Fを電子密度nを用いて表せ。

  • Sommerfeldモデルにより、電子比熱を導け。また、エネルギー等分配則から見積もられる値に比べて小さくなる理由を簡潔に述べよ。

  • 固相反応法の仕組み、試料を作る場合の注意点とその理由、それを怠った場合に起こり得る試料品位の低下について述べよ。

  • YBa\(_2\)Cu\(_3\)O\(_7\)には異方性があるため、c軸方向に磁場をかけた場合と、a、b軸方向に磁場をかけた場合とで\(H_{c1}\)が異なる。a、b軸方向に磁場をかけた場合の\(H_{c1}\)は液体窒素温度でおよそ100 Oe(= 8000 A/m)である。\(10^4\) 回/mのソレノイドコイルに何Aの電流を流すと超伝導体内に磁束が入り出すか。

  • 相互インダクタンス\(M_i(H)\)を次の\(n_1\), \(n_2\), \(\mu\), \(l\), \(S\)を使って求めよ。
    \(n_1\) = \(n_2\) = \(10^4\) 回/m, \(\mu = \mu _0 = 4 \pi /10^7 (H/m)\), \(l=5 \times 10^{-2} m\), \(S= 1.77 \times 10^{-4} m^2\)
    またこのときに1次側の交流の最大電流が\(I_0=\) 1 mAならば2次側に生じる最大電圧 \((V_0)\)は何Vか。但し、用いる周波数は1kHzとする。
  • 下図のように図8の2次側コイルを半分のところで逆向きに巻いた場合には、2次側の電圧はどうなるか。但し、1次側には、電流\(I_1= I_0 e^{i \omega t} (A)\)が流れており、1次側のコイルの単位長さあたりの巻数は\(n_1\)(回/m)、2次側の場合は\(n_2\)(回/m)、コイルの長さ\(l\)(m)、その断面積\(S(m^2 )\)とする。次に2次側コイルのうち1次側コイルと同じ向きに巻いた方に磁化率\(\chi\)の試料を入れると、2次側の電圧はどうなるか。さらに\(\chi\)\(\chi ' + i \chi "\)として1次側の電流の位相と比べると\(\chi '\)\(\chi "\)とは各々どれだけ遅れていることになるか。ちなみに\((-i)\)\(\pi/2\)の遅れに相当し、(-1)で\(\pi\)の遅れに相当する。

  • 式(8)および表3を用いて、銅の抵抗率を求めよ\((1\Omega \cdot m=1 kg \cdot m^3 \cdot s^{-1} \cdot C^{-2})\)