熱力学と相変態

熱力学の法則

保存則と劣化則

 材料科学において熱力学の法則は,構造の安定性や温度・圧力による構造変化(相変態)を考えるうえで不可欠なものである.

 熱力学の第1法則と呼ばれるものは エネルギー保存則 である.これは,19世紀中頃,力学エネルギー(仕事)が熱エネルギーに変換されることを示したジュール(Joule)などの研究によって確立された.熱の仕事当量:lカロリー(cal)= 4.2ジュール(J)はその変換比率を示したものである.エネルギー保存則は,加えた熱dQが内部エネルギーの変化dEと仕事dWの和になるという式

(28)\[dQ = dE + dW\]

で書き表せる.ここでdは微小な量であることを示す添字である.

 熱力学の第2法則は エントロピー増大則 とも呼ばれ,19世紀後半,クラウジウス (Clausius)が定式化した.それは「熱は高温の物体から低温の物体へ流れるが,外部に変化を与えずに低温から高温へ移動することはない」と表現される.それに基づいて,エントロピーと呼ばれる量Sが導入された.系に加えた熱量をdQ,絶対温度をTとすると,

(29)\[dS= \frac{dQ}{T}\]

あるいは,

(30)\[S = \int_0^T \frac{dQ}{T}\]

と定義される.積分は,各温度で流入(または流出)した熱量dQを温度Tで割ったものの総和がエントロピーSであることを意味する.エントロピーSはエネルギー(熱量)の質を表す量である.同じ熱最 dQが導入されても温度が高いほどdSは小さい.熱力学第2法則は,可逆過程を除き,エントロピーが不可避的に増大することを示したもので,エネルギーの劣化則ということができる.

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図 30 エネルギーと物質の保存則・劣化則と相互転化の関係

  図 30 にエネルギーと物質について,その保存則と劣化則の関係をまとめて示した.アインシュタインの相対性理論によってE = Mc2(Eはエネルギー,Mは質量,cは光速)の関係が導かれ,エネルギー保存則と物質不滅則は両者を合わせての保存則に統合された.劣化則(拡散則)はエネルギー,物質あわせてエントロピー概念によって統合されている.熱に付随するエントロピー(これを熱エントロピーと呼ぶことにしよう)と物質の状態に付随するエントロピー(これを物質エントロピーと呼ぽう)とは相互に転化できる.次の思考実験によって物質エントロピーの表式を求めてみよう.

 ピストン内に閉じ込められたnモルの理想気体に熱Qを与えて,ゆっくりと(準静的に)一定温度Tで膨張させたとする( 図 31 ).はじめの体積をV0とし,膨張後の体積をVとすれば,そのとき熱Qが行った仕事は

(31)\[W = \int dW = \int_{V_0}^V P dV = \int_{V_0}^V \frac{nRT}{V} dV = nRT \ln \frac{V}{V_0}\]

ここで,理想気体の状態方程式PV=nRTを用いた.理想気体の内部エネルギーは体積によらないから熱Qはすべて仕事Wに変わり,熱QのもっていたエントロピーS=Q/Tは,体積膨張という物質の状態変化のエントロピーに転化している.このプロセスは可逆(仕事Wを与えて等温圧縮し,もとの状態に戻すことができる)なので,エントロピーSは変化しない.ゆえに,物質エントロピーは,Q=Wを用いて

(32)\[S= \frac{Q}{T} = \frac{W}{T} = nR \ln \frac{V}{V_0}\]

と表される.

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図 31 熱が仕事に変わり,熱のエントロピーは物質のエントロピーに転化する.

 この 物質エントロピーS は,物質が拡がったことによって生じたエントロピーである.同じように,物質Aと物質Bを混合した場合の 混合エントロピー は,A, B両物質が圧力(全圧)一定で拡散したことによるエントロピーと考えることができる.それぞれの物質を混合前の体積に戻すのに必要な仕事は,物質Aの濃度をcとすると,Aの体積をV0からcV0へ圧縮する仕事WAと,Bの体積をV0から(1-c)V0へ圧縮する仕事WBに等しい.物質Aはncモル,Bはn(l-c)モルだから,

\[\begin{split}W = W_A + W_B &= -(ncRT \ln \frac{cV_0}{V_0} + n(1-c)RT \ln \frac{((1-c) V_0}{V_0} ) \\ &= –nRT(c \ln c + (l-c) \ln (l-c))\end{split}\]

ゆえに混合エントロピーは

(33)\[S = -nR(c \ln c + (l-c) \ln (l-c))\]

 このような混合物質の分離を行うには,その仕掛けが必要である. 図 32 のように,気体Aは通すがBは通さない半透膜を箱の左側へ用意し右側へ押してゆく.同時に気体Aは通さずBのみを通す半透膜を右から左へ移動させればA, B物質の分離ができる.この過程をゆっくりと等温的に行えば,物質のもっていた混合エントロピーは系外へ流出する熱のエントロピーに転化する.

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図 32 混合した気体の分離

それぞれ一方の気体しか通さない膜(半透膜)を用いて,気体Aを圧縮するに要する仕事がWA,気体Bを圧縮するに要する仕事がWBである.これを等温過程として行えば,加えた仕事 W = WA+WBに対応する熱Qが系外に移り,混合エントロピーに相応する熱エントロピーをもってゆく.

系の状態変化の方向

 熱力学的な系は, 孤立系熱開放系物質開放系 に分類できる( 図 33 ).孤立系とは,外界と全く隔絶され,熱も物質も流出入しない状態の系をいう.熱開放系は熱については外界(環境)とやりとりがあり,物質についてはやりとりがない系である.物理学の教科書では閉鎖系という表現が用いられることが多いが,孤立系とまぎらわしいイメージなので,本書では熱開放系という言葉を用いることにした.熱については環境とやりとりがあるのだということを強調する意味もある.物質開放系とは,熱も物質も外界とやりとりをしている系である.物質が開放されていればそれに伴って熱(エネルギー)も流出入する.一般的には単に開放系という.

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図 33 熱の出入りをdQ,物質の出入りをdnとすると,(a)孤立系では dQ = 0, dn = 0, (b)熱開放系では dQ≠0, dn= 0, (c)物質開放系ではdQ≠0, dn≠0である.

 さて,プリゴジン(Prigogine)は系のエントロピー変化を次のように書き表した.

(34)\[dS=d_e S + d_1 S\]

dという記号は微小変化を表す.deSは,系外から熱や物質とともに系内へ流人してきたエントロピーで, エントロピー輸送(entropy transfer) と呼ぶ.熱による輸送の場合は,

(35)\[d_e S = \frac{dQ}{T}\]

である.dQは系内に流入(流出の場合は負)した熱量である.d1Sは エントロピー生成(entropy production) を表している( 図 34 ).熱力学第2法則は

(36)\[\begin{split}d_1 S &> 0 (不可逆過程) \\ &= 0 (可逆過程)\end{split}\]

と表現される.

 孤立系では,deS = 0であるから,

\[dS = d_e S+d_1 S = d_1 S ≧ 0\]

すなわち, 孤立系のエントロピーは減少することはない.

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図 34 系のエントロピー変化はエントロピー輸送deSとエントロピー生成d1Sの和である.

 次に外界と相互作用する開放系について考える.微小な熱量dQが系に加えられたときの内部エネルギー変化dEと微小な仕事PdVとの関係は,エネルギー保存則から

(37)\[dQ = dE + PdV\]

ここで材料の熱処理などにおいて,系が等温変化する場合に役立つ関数として,2つの自由エネルギーを定義する.1つは ヘルムホルツ(Helmholtz)の自由エネルギー と呼ばれるもので

(38)\[F = E – TS\]

もうひとつは ギブス(Gibbs) の自由エネルギー

(39)\[G = E + PV – TS\]

である.ここでEは 内部エネルギー であるが,

(40)\[H = E + PV\]

で定義される エンタルピー(enthalpy,エントロピーと混同せぬこと) を用いれば

(41)\[G = H – TS\]

とも書ける.

 さて,ヘルムホルツの自由エネルギーFの微小変化dFを考える.dFは,E, T, Sのそれぞれが変化した結果として生じる.すなわち,

(42)\[\begin{split}F + dF &= (E + dE) – (T + dT)(S + dS) \\ \therefore dF &= dE – TdS – SdT\end{split}\]

ここでdTdSは高次の微小量となるので無視した.式 (42) に式 (37) と式 (34) を代入すると

\[dF = (dQ – PdV) – T(d_e S + d_1 S) – SdT\]

さらに,式 (35) の関係を用いて

(43)\[\begin{split}dF &= ( T d_e S – PdV) – T (d_e S + d_1 S) – SdT \\ &= – PdV – SdT – T d_1 S\end{split}\]

ここで,系が温度一定,体積一定の条件で変化するならばdV = 0, dT = 0 である.式 (36) の関係から生成エントロピーd1Sは正またはゼロであるから,

(44)\[dF≦0 (等温等積変化)\]

次に,ギブスの自由エネルギーGの微小変化dGを考える.

(45)\[dG = dH – TdS – SdT\]

ここでエンタルピー変化dHは式 (40) の定義式から

(46)\[dH = dE + PdV + VdP\]

この式からわかるように,エンタルピー変化dHは,等圧条件 (dP = 0)下で吸収される熱量dQに等しい.式 (45) に,式 (46) ,式 (37) ,式 (35) , 式 (36) を次々に代入してゆくと

(47)\[\begin{split}dG &= (dE + PdV + VdP) – T(d_e S + d_1 S) – SdT \\ &=(dQ + VdP) – T(d_e S + d_1 S) – SdT \\ &= VdP – SdT – T d_1 S (3.17)\end{split}\]

ゆえに

(48)\[dG≦0 (等温等圧変化)\]

 以上のことから,等温条件下では自由エネルギーが減少する方向へ系の状態が変化することがわかる.不可逆過程でのエントロピー増大則d1S > 0が根本にあり,等温等積あるいは等温等圧という条件が加わると,dF≦0, または,dG≦0が導かれる.自由エネルギー減少はすべての条件下で成り立つと誤解する人もいるので注意が必要である.

熱力学的平衡の概念

  相とは ,そのなかでの物質の状態が均ーであり,かつ,熱力学的な状態量が定義できる空間的拡がりをもったものをいう.原子が数十個程度集まったクラスター(cluster)などはひ とつの相といえるかどうか判断がむずかしいと思われる.また,異なる物質を交互に積層した多層膜(人工格子ともいう)においてそれぞれの層をひとつの相と呼べるかどうか疑わしい.しかし,2次元の表面状態についてそのエネルギーや配列を熱力学的・統計力学的に考察することもできるので,3次元的に拡がっていなくても相と呼んでよい場合もある.

 さて, 平衡(balance, equilibrium) という言業はもともと力学的な釣合いをはかる天秤からきている. 図 35 に純力学的な平衡・非平衡の概念図を示す.平衡には安定平衡と不安定平衡とがある.不安定平衡はどちらかの方向へわずかの力が加わってもバランスを失う.理屈上は可能だが,将棋の駒の逆立ち状態が実現したとしても実際は微小な平坦部があったり,台がわずか変形したりして安定化しているのである.安定平衡のうち,最もエネルギーの低い状態を安定位置,それ以外を 準安定位置 と呼んで区別する. 非平衡状態 は,状態がバランスしておらず,時間的に変化しつつある状態である.

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図 35 平衡状態と非平衡状態を表す力学モデル

  図 36 (a)は,物体の位置エネルギーVを位置Xの関数として表したものである.平衡状態は,

(49)\[\begin{split} \frac{dV(x)}{dx} &= 0 \\ \frac{d^2 V}{dx^2} &> 0 (安定平衡) \\ \frac{d^2 V}{dx^2} &< 0 (不安定平衡)\end{split}\]

と表せ,非平衡状態は

(50)\[\frac{dV(x)}{dx} \neq 0\]

と表せる.

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図 36 (a)力学モデル,(b)熱力学モデル A:安定平衡,B:準安定平衡,C:不安定平衡,D:非平衡

 物体の位置エネルギーの代りに,熱力学では,前述の自由エネルギーを用いて熱力学的平衡を論じる.等温等圧下ではギブスの自由エネルギーGが減少する方向へ変化が起こる.そこで 図 36 (b)でVの代りにGと書き,位置xの代りに状態パラメータηと書けば,熱力学的平衡状態は

(51)\[\frac{dG(η)}{dη} = 0, \frac{d^2 G(η)}{dη^2} > 0\]

と表せる.熱力学的平衡には力学と違って不安定平衡というのは原理的に存在しない.なぜならば自由エネルギーGは統計力学的な平均量であって,時間変動する熱ゆらぎを伴っている.それで不安定平衡状態にとどまることはない.

相変態の熱力学

相平衡と相変態

 2つの相がバランスしたまま共に存在し続ける,すなわち, 相平衡にある ためには, 1. 2つの相の温度が等しい2. 2つの相の圧力が等しい3. 2つの相のギブス自由エネルギーが等しい ,という条件が必要である.これを式に書けば,2つの相をα, βとして,

(52)\[\begin{split}T_{\alpha} &=T_{\beta} \\ P_{\alpha} &=P_{\beta} \\ G_{\alpha} &=G_{\beta}\end{split}\]

となる.

 2つの相のギブスの自由エネルギーは式 (41) から

(53)\[\begin{split}G_{\alpha} (P, T) &= H_{\alpha} – TS_{\alpha} \\ G_{\beta} (P, T) &= H_{\beta} – TS_{\beta}\end{split}\]

と書かれる.たとえばαが固相,βが液相だとすると,固相は液相に比べエンタルピーHが小さい.液体や固体では圧力による体積変化が小さいから,エンタルピーHの代りに内部エネルギーEをイメージしてもよい.内部エネルギーの大小は結合エネルギーの大小で決まる.固体状態では原子が強く結合しているので液体に比べ内部エネルギーが小さく,エンタルピーも小さい.固相ではエントロピーSも小さい.構造の乱れが液相に比べ小さいからである.それゆえ,

\[\begin{split}H_{\alpha} &< H_{\beta} \\ S_{\alpha} &< S_{\beta}\end{split}\]
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図 37 低温相αおよび高温相βの自由エネルギーの温度変化.変態温度T0以下ではα相,T0以上ではβ相が安定になる.

  図 37 に2つの相の自由エネルギーを温度Tの関数として模式的に示した.一般に,高温になるほどエントロピーを含む項 –TSが効いてくるから,Sの大きい相の方が高温で安定になる.それゆえ,温度上昇とともに固相αから液相βへと相変態(相転移ともいう)する.

 相変態温度T0では2つの相の自由エネルギーが等しくGα= Gβである.ゆえに式 (52) より

\[H_{\beta} – H_{\alpha} = T_0(S_{\beta}- S_{\alpha})\]

この式の意味は,変態点T0で熱Hβ – Hαを吸収(低温相αから高温相βへ移るとき)して,系のエントロピーに変える,あるいはβ → αのときは系のエントロピーの減少分を熱として放出することを示している.すなわち,熱エントロピーと物質エントロピーとの間の変換が行われているのである.

\[L= H_{\beta} – H_{\alpha}\]

は温度変化として観測できない熱であるから潜熱 (latent heat)という.なお,多くの金属で,融点をTmとするとき,

\[L = T_m(S_L–S_S) ≒ RT_m\]

であることが経験的に知られている.ここでSLとSSは液相と固相のエントロピーである.

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図 38 変態点(P0, T0)から圧力をP0+ dPへ変化させたときの様子 変態温度がT0+dTへ変化し.相平衡が保たれる.

 さて,変態点ではGα(P0, T0) = Gβ(P0, T0)であるが,外圧をわずかに変えてP0→ P0+ dPとしたとき,変態温度がわずかに変わってT0 → T0+ dTになったとすると( 図 38 ),やはり

\[G_\alpha (P_0 + dP, T_0 + dT) = G_\beta(P_0 + dP, T_0 + dT)\]

である.GをP0, T0のまわりでテイラー展開すると

\[\begin{split}G(P_0 + dP, T_0 + dT) = G(P_0,T_0) + \left( \frac{\partial G}{\partial P}\right)_T dP + \left(\frac{\partial G}{\partial T}\right)_P dT \\ + \frac{1}{2} \left(\frac{\partial^2 G}{\partial P^2}\right)_T dP^2 + \frac{1}{2} \left(\frac{\partial^2 G}{\partial T^2}\right)_P dT^2 + \left(\frac{\partial^2 G}{\partial P \partial T}\right) dPdT + ⋯\end{split}\]

ここで,平衡状態(d1S = 0)では,式 (47) を用いて,

(54)\[V = \left(\frac{\partial G}{\partial P}\right)_T, S = -\left(\frac{\partial G}{\partial T}\right)_P\]

であるから

\[\begin{split}G(P_0 + dP, T_0 + dT) = G(P_0, T_0) + VdP – SdT \\ + \frac{1}{2} \left(\frac{\partial V}{\partial P}\right)_T dP^2 + \frac{1}{2} \left(\frac{\partial S}{\partial T}\right)_P dT^2 + \left(\frac{\partial V}{\partial T}\right) dPdT + ⋯\end{split}\]

と書ける.

 α, β両相についてGをテイラー展開し,両辺を差し引くと

(55)\[0 = 0 + \Delta V \cdot dP - \Delta S \cdot dT + \frac{1}{2} \Delta \left(\frac{\partial V}{\partial P}\right)_T dP^2 - \frac{1}{2} \Delta \left(\frac{\partial S}{\partial T}\right)_P dT^2 + \Delta \left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_P dPdT + ⋯\]

ここで,ΔV= Vβ – Vαは両相の体積差,ΔS = Sβ – Sαは両相のエントロピー差を表す.2次の項についても同様である.

 さて,ここで相変態の次数を定義しよう.エーレンフェスト(Ehrenfest)によれば,変態点において自由エネルギーのn次の微係数

\[\frac{\partial^n G}{\partial P^n}, \frac{\partial^n G}{\partial T^n}\]

などにはじめてとびを生じる場合,n次相変態であると定義される((n – 1)次の微係数は連続である).

  図 39 に1次相変態と2次相変態の自由エネルギー曲線を概念的に示した.

 1次相変態は自由エネルギーの1次微係数であるVとSのどちらか,または,両方にとび(有限の差)があるときである.したがって式 (55) で1次の項が残り,

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図 39 (a) 1 次相変態, (b) 2 次相変態 (a)1次相変態では変態点で自由エネルギーの1次微係数(勾配)に差があり,(b)2次相変態では差がない.2次微係数に差がある.

\[\frac{dP}{dT} = \frac{\Delta S}{\Delta V}\]

あるいは,潜熱Lを用いて

(56)\[\frac{dP}{dT} = \frac{L}{T_0 \Delta V}\]

というクラペイロン-クラウジウス(Clapeyron-Clausius)の式が得られる.

 V, Sとも変態点で連続 (ΔV=0, ΔS=0)の場合は,2次以上の相変態になる.ギブス自由エネルギーの2次の微係数,(∂V/∂P)T,(∂S/∂T)P,(∂V/∂T)Pは圧縮率χ, 熱膨張係数α, 定圧比熱Cと次の関係式で結ばれている.

(57)\[\chi = –\frac{1}{V} \left(\frac{\partial V}{\partial P}\right)_T, \alpha = - \frac{1}{V} \left(\frac{\partial V}{\partial T}\right)_P, C = T \left(\frac{\partial S}{\partial T}\right)_P\]

ここで,はじめの2つはそれぞれχとαの定義である.定圧比熱Cは,エントロピーSが各温度でのdQ/Tの総和であることを表す式

(58)\[S = \int_0^T \frac{dQ}{T} = \int_0^T \frac{C}{T} dT\]

より導かれる.式 (58) から,χ,α, Cのいずれかに不連続(とび)が観測されれば,その変態は2次相変態である.

 固体(結晶)から液体へ移る場合には,通常の金属では融点Tmで大きな体積膨張があり,1次相変態である.この場合は,融点で2相が共存し,熱を供給すると潜熱として吸収され液相へ移ってゆく.あるいは熱を奪うと凝固する.一方,材料科学で重要な相変態である規則・不規則変態や磁気相変態,誘電体構造相転移,超伝導転移などは2次相変態であり,比熱のとびが観測される.

さまざまな相変態

 ここで,少し具体的に相変態の実例を考えてみよう.物質の状態としては,気相,液相,固相がある.固相には原子配列の対称性の違いによって複数の相が存在する.そのなかには, 第4章で述べるアモルファス固体や準結晶相も含まれる.

 温度,圧力,あるいは磁場,電場などの外的パラメータの変化により,1つの相からほかの相へ変わることを一般に 相変化 あるいは 相変態相転移 という.これらはほぼ同義に使われるが,相変態(phase transformation)を固相の原子配列変化に限って用いる場合もある.

 固相における相変態は, 拡散相変態無拡散相変態 に分けられる.拡散変態は,原子がもとの位置から熱的に励起されて隣接位置へ移動するという拡散プロセスを介して起こる相変態である.スピノーダル分解やさまざまな析出反応 ,規則不規則変態がその例である.一方,無拡散変態は隣接する原子がお互いの位置関係を保ちつつ連携して動くことによって相変態する.マルテンサイト変態がその代表である(第6章参照).

 磁性体の強磁性変態や誘電体の構造相転移なども材料科学にとって重要な相変態である.これらの相変態では原子配列の対称性が変化するのでなく,磁化Mや誘電分極Pのようなベクトルで表される物理量が変化する.それゆえ,対称性の変化を原子配列に限定せず,外的パラメータの変化によって物質の対称性が変化する現象を相変態(相転移)ということができる.一般に,高温から低温へ移る際には,対称性が低くなり,より複雑な構造に変化する.

ランダウーギンツブルグ展開

 相変態によって対称性が破れ,より複雑な構造が出現するとき,その構造を特徴づけるパラメータとして秩序度ηを導入する.規則不規則変態ではηは規則度(後述)であり,強磁性体では磁化の大きさMを基底状態(絶対零度)での値M0で割ったM/M0,誘電体の構造相転移では分極の大きさPを用いてP/P0をηとすればよい.ηは –1 ≦ η ≦ 1の範囲で定義される.η=0が無秩序状態(高温相)である.系に与えられた拘束条件に応じて熱力学的ポテンシャル(たとえばギブスの自由エネルギー)を選び,秩序パラメータで展開する.

(59)\[G(T,\eta) = G_0(T) + a(T)\eta^2+b\eta^4+…\]

多くの場合,ηと–ηとが同等な状態を表すので奇数項は現れず, 図 40 のようになる.η= 0(無秩序)の状態は,a(T) > 0 では安定,a(T) < 0では不安定になる.

 2次相変態では変態温度(習慣に従ってTCと表記する)以下でηがゼロから連続的に変化する.a(T)の符号が変わる温度が変態温度T = TCである.そこでa(T)を最も単純にTの1次関数と仮定する.

\[a(T)=a_0(T – T_C)\]

a0 > 0である.極小の条件は

(60)\[\frac{\partial G}{\partial \eta} = 0, \frac{\partial^2 G}{\partial \eta^2} > 0\]
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図 40 (a) 2 次相変態, (b) 1 次相変態 相変態温度TC上下でのギブス自由エネルギー(秩序度ηの関数として示されている)

これより,

\[\frac{\partial G}{\partial \eta} = 2a\eta + 4b\eta^3 + ⋯ = 0\]

を用いて

(61)\[\begin{split} \eta^2 &= -a/2b = -(a_0/2b)(T-T_C), (T ≦ T_C) \\ &= 0, (T > T_C)\end{split}\]

なお,1次相変態の場合は, 図 40 (b)に示すように,a(T)の符号が逆転する温度より高温で相変態が起こり,不連続的にη≠0の状態が安定となり,η= 0の高温相と共存しつつ,相変態が起こる(たとえば液相の凝固など).

 次に,2次相変態における比熱変化を求めよう.式 (59) に式 (61) を代入して,

\[G = G_0 – (a_0^2/b)(T - T_C)^2 + … , T ≦ T_C\]

また,

\[C=T \left(\frac{\partial S}{\partial T}\right)_P = -T \left(\frac{\partial^2 G}{\partial T^2}\right)_P\]

だから,

\[\begin{split}C &= C_0(T)+\frac{a_0^2}{b}T, (T≦T_C) \\ &= C_0(T), (T>T_C)\end{split}\]

ηに依存しない項C0(T)を除くと,この式は温度に対しΛ型の比熱変化とT=TCでの比熱のとび

(62)\[\Delta C = \frac{a_0^2}{b} T_C\]

を与える.

 実際には変態点で比熱はより鋭く立ち上がり,

\[C(T) \propto (T_C – T)^{–\alpha'}, T ≦ T_C\]

のように発散する(α' > 0)ことが多い.このような食い違いは,ランダウーギンツブルグ展開が系のゆらぎを無視したために生じる.秩序度の時間平均を〈η〉とすると,ηのゆらぎは

\[(\eta – \langle \eta \rangle)^2 = \eta^2 – 2 \eta \langle \eta \rangle + \langle \eta \rangle^2\]

であり,

\[\begin{split}\eta^2 = 2 \eta \langle \eta \rangle – \langle \eta \rangle^2 + (\eta – \langle \eta \rangle)^2 \\ \therefore \langle \eta^2 \rangle = \langle \eta \rangle^2 + \langle(\eta – \langle \eta \rangle)^2\rangle\end{split}\]

ランダウーギンツブルグ展開では第2項のゆらぎを無視した表式になっている.これは後述の平均場近似と等価である.変態点付近ではより高次の相関を取り入れないと,実験と合わなくなる.これを 臨界現象 (critical phenomena)という.