格子欠陥

点欠陥

点欠陥の種類と濃度

 第1章では,完全な結晶の構造について述べた.実在の結晶は完全結晶ではなく,種々の欠陥を含んでいる.本章で述べる点欠陥はそのひとつであり,空孔,格子間原子,不純物原子などが含まれる.

  図 18 は,純金属およびイオン結晶の点欠陥の例を示している.純金属では 図 18 (a) のように,正規の格子点を占有する原子は1種類である.格子点の中には原子の存在していない個所があり,これを空孔(vacancy)という.図中の四角い破線で囲った個所が空孔である.原子は,時には正規の格子点の間に入り込むことがある.これを格子間原子 (interstitial atom)と呼ぶ.格子点,あるいは格子間に入った不純物原子は,それぞれ 置換型不純物原子,格子間不純物原子と呼ばれる.

_images/2-1.jpg

図 18 純金属およびイオン結晶の点欠陥

 結晶中の空孔濃度は,温度が高くなるにつれて増加する.ある温度Tにおいて存在する熱平衡の空孔濃度は,

(18)\[c_v = c_{v_0} e^{-\Delta H_f/k_B T}\]

で与えられる.ここで,空孔濃度cvの単位は分率で表し,cv0は定数,ΔHfは空孔の形成エネルギー,kはボルツマン定数である.熱平衡の空孔濃度は,ΔHfの大小によって決まる. 表 1 に数種の物質の点欠陥の形成エネルギーが示されている. 純粋なAuあるいはCu の空孔の形成エネルギーはおよそ1 eVである.

表 1 点欠陥の形成エネルギー1)

材料

Hf/eV*

点欠陥の種類

Au

0.94

単空孔

Cu

1.27

単空孔

Al

0.66

単空孔

Mo

3.2

単空孔

CaF2

2.3~2.8

フレンケル欠陥

AgBr

1.1

フレンケル欠陥

NaCl

2.2-2.4

ショットキー欠陥

MgO

7.5

ショットキー欠陥

Al2O3

10.0

ショットキー欠陥

注釈

1 eV = 23.05 kcal/mol = 96.44 kJ/mol

 イオン結晶は,陽イオンと陰イオンから構成されており,少なくとも2種類の原子からなっている. 図 18 (b)は,それぞれ1価の陽イオンと陰イオンからなるイオン結晶中の点欠陥を示している.イオン結晶では,局所的に電気的中性を保つために,点欠陥が対になって形成されるのが特徴である.たとえば,陽イオン空孔が生成するときには,電気的中性を維持するために対となる陰イオン空孔が生成したり,陽イオンが格子間に移動したりする.前者は陽イオンと陰イオン空孔の対であり,これをショットキー欠陥(Schottky defect)という.一方,後者の空孔と格子間イオンとの対はフレンケル欠陥 (Frenkel defect)と呼ばれる.なお,陽イオン空孔は,電子の穴である正孔(hole)と対になることによっても電気的中性を維持することが可能である.

 イオン結晶に不純物イオンが入る場合も,電気的中性を保つように点欠陥が生成する. たとえば,2価の陽イオンが不純物として入ると, 図 18 (b)のように電子が生じたり,陽イオン空孔ができたりして電気的中性を維持する.実際にどのような点欠陥が生じるかは,物質によって異なる.

  表 1 に示されているように,CaF2 やNaClなどのイオン結晶の点欠陥の形成エネルギーは,金属よりもかなり大きい.この事実は,イオン結晶中に熱平衡状態で存在する点欠陥濃度が金属に比べて小さいことを意味している.イオン結晶でも,CaF2 のように大きな格子間隙を有するものや,AgBrのようにイオンが分極しやすい結晶中にはフレンケル欠陥が生じる.一方,ショットキー欠陥は表面や粒界などの格子の乱れたところに形成されやすい.イオン結合性の強いMgOゃAl2O3 などのセラミックスではさらに点欠陥の形成エネルギーが大きい.ショットキー欠陥の形成エネルギーから見積もると,MgOでは2000 ℃という 高温でもこの欠陥の濃度は5×10-9 程度にすぎない.

 このように,イオン結晶やセラミックスでは,熱平衡の点欠陥濃度は小さいが,これらの結晶には不定比性あるいは不純物によって多量の点欠陥が導入される場合がある.そして,このような点欠陥によってこれらの物質には特有の拡散現象あるいは導電性が生じる.

点欠陥の表示法

 イオン結晶では,生成する点欠陥の種類を表示する記号法がよく用いられる.この中で最も一般的なものは,クレーガー—ヴィンク(Kroger-Vink)の記号法である.この方法では,欠陥を

\[A_a^b\]

のように表示する.ここで,Aは当該のイオンあるいは空孔を表し,下付きの記号aは対応する格子位置,上付きのbは欠陥が導入されたことによる電荷の偏りを示す.1価の陽イオンM+と1価の陰イオンXからなる化合物MXでは,Aは陽イオンに対してはM, 陰イオンについてはXと書かれる.また,空孔はVと書く.格子位置を示すaは,陽イオンサイトはM, 陰イオンサイトはX, 格子間位置はiと記述する.原子価の偏りは,正の場合は・,負では´を用いて上付きbに示す.また,上付きの*は,電荷の偏りがないことを示す.以下は,この記号法を用いた記述の例である.

\(\mathrm{M}_{\mathrm{M}} { }^{*}\)

陽イオンサイトを占めるM+ イオン

\(\mathrm{X}_{\mathrm{X}} { }^{*}\)

陰イオンサイトを占めるX イオン

\(\mathrm{V}_{\mathrm{M}} { }^{'}\)

陽イオンサイトの空孔

\(\mathrm{M}_{\mathrm{i}} { }^{*}\)

格子間位置にあるM+ イオン

\(\mathrm{L}_{\mathrm{M}}^{\bullet \bullet}\)

陽イオンサイトにある3 価のL3+ イオン

e'

電子

\(\mathrm{h}^{\bullet}\)

正孔

 たとえば,陽イオンサイトに空孔が生じると,そのサイトは本来+1であるべきところが電気的に中性状態になるので,–1の電荷の偏りが生じたことになる.このため,陽イオンサイトが空孔となった状態は \(\mathrm{V}_{\mathrm{M}} { }^{'}\) と書かれる.また,陽イオンサイトが3価の陽イオンL3+で占められると,そこには+2の電荷の偏りができるので, \(\mathrm{L}_{\mathrm{M}}^{\bullet \bullet}\) と書く.この記号法を使って点欠陥反応を記述するにあたっては,反応に際して物質収支が保たれること,電気的中性が維持されることに留意しなければならない.この記号法による記述の具体例は,不定比化合物中の点欠陥生成を例に次節で述べる.

不定比性

a.固有の不定比性

 イオン結晶において,陽イオンと陰イオンの数が一定の比率になっている化合物を定比化合物(stoichiometric compound)という.酸化物セラミックスの中では,Al2O3(アルミナ),MgO(マグネシア),SiO2(シリカ)などが代表的な定比化合物である.たとえばアルミナは,Al3+イオンとO2–イオンの数の比は常に2対3になっており,この比が変わることによって不定比性が生じることはない.ところが,多くの遷移金属化合物は,陽イオンが複数の原子価をとるために不定比性が生じる.このように,ある物質が本来もつ不定比性を固有の不定比性あるいは真性の不定比性(intrinsic nonstoichiometry)と呼ぶ.不定比性は,結晶中の点欠陥の生成を伴う.

 たとえば,Co1–xO, Fe1–xO(ウスタイト)などの化合物は,陽イオン空孔ができて不定比性を生じる. 図 19 は,Co1–xOの点欠陥生成の模式図である.多くのCoイオンは2 価であるが,一部は3価のCo3+イオンとなる.このとき,電気的中性を維持するためにCo3+イオン2 個に対して1個の陽イオン空孔ができる.この反応をクレーガーーヴィンクの記号法によって書くと,

(19)\[ 2\mathrm{CoO} \longleftrightarrow 2\mathrm{Co}_{\mathrm{Co}} { }^{\bullet} + \mathrm{V}_{\mathrm{Co}} { }^{"}+ 2\mathrm{O}_{\mathrm{O}} { }^{*}\]

となる.一方,Co3+イオンはCo2+イオンと正孔の対と見なすことができる.したがって,Co1–xOのような陽イオン不足型の不定比化合物は,不定比性に伴って正孔ができることになり,p型の半導体となる.

_images/2-2.jpg

図 19 Co1–xO中の点欠陥

 Co1–xOに生成する Co3+イオン濃度は,雰囲気の酸素分圧に依存する.これは,酸素分圧が高いほど表面に酸素イオンが吸着し,Co2+イオンのサイトの空孔濃度が高くなるためである.このときの反応は,

(20)\[\frac{1}{2} O_2 (g) ←→ O_O^{*} + V_{Co}^{"} + 2h^{\bullet}\]

と書かれる.式 (20) の反応定数は,

(21)\[K = \frac{[O_O^{*}][V_{Co}^{"}][h^{\bullet}]^2}{P_{O_2}^{1/2}}\]

で与えられる.ここで,[ ]は濃度記号であり,濃度は各サイトについての分率で表す. \([O_O^{*}]\) は1に近く,生成する空孔濃度と正孔の濃度との間には, \(2[V_{Co}^{"}] = [h^{\bullet}]\) の関係が成り立つので,

(22)\[[V_{Co}^{”}] = \frac{1}{2} [h^{\bullet}] = \sqrt[3]{K}{4} P_{O_2}^{1/6}\]

 となる.式 (22) は,陽イオン空孔として \(2[V_{Co}^{"}]\) が生じるのであれば,空孔濃度あるいは正孔濃度は酸素分圧の1/6乗に比例することを示している.一方,この物質の導電率は正孔濃度に比例するので,導電率の測定により,点欠陥反応を推定することができる.Co1-xOでは,導電率測定結果から低酸素分圧の領域で式 (20) の反応が生じていることが確かめられている.

 一方, CeO1–x,TiO2–x, TiC2–xなどの陰イオン不足型不定比化合物では,不定比性によって陰イオン空孔および電子が生成する.したがって,この化合物はn型半導体となる物質である.陰イオン不足型不定比酸化物中の点欠陥濃度の \(\mathrm{P}_{\mathrm{O_{\mathrm{2}}}}\) 依存性は,陽イオン不足型不定比酸化物とは逆になる.たとえば,2 価の酸素イオン空孔が生じるときには,導電率は \(\mathrm{P}_{\mathrm{O_{\mathrm{2}}}}\) の–1/6乗に比例する.物質中には複数の種類の点欠陥が同時に生成する場合があり,実際に生じている点欠陥反応を理解するのは必ずしも容易ではない.

b.外因的不定比性

 ある化合物に,原子価の異なる陽イオンあるいは陰イオンを添加すると不定比性が生じる.この不定比性を,外因的不定比性(extrinsic nonstoichiometry)という.たとえば,ZrO2にCaOを添加すると,陽イオンであるZr4+イオンとCa2+イオンの原子価の相違によって不定比となる.Ca2+イオンがZr4+イオンの格子点に置換し,電気的中性を維持するために陰イオン空孔 \(\mathrm{V}_{\mathrm{O}} { }^{\bullet \bullet}\) が生成する反応は,

(23)\[ 2\mathrm{CaO} \longleftrightarrow \mathrm{Ca}_{\mathrm{Zr}} { }^{"} + \mathrm{O}_{\mathrm{O}} { }^{*} + \mathrm{V}_{\mathrm{O}} { }^{\bullet \bullet}\]

と書かれる.

  図 20 は,この点欠陥反応の模式図である.式 (23) の反応は, ジルコニア(ZrO2)中で実際に生じるものである.この場合には,生成する酸素イオン空孔濃度はCa2+イオンの添加量に等しい.このように,外因的不定比化合物では,生成する点欠陥濃度が添加物の量に依存し,酸素分圧などの雰囲気の影響を受けない.CaOなどの添加によって酸素イオン空孔濃度が増すと,ジルコニアは高温で優れた酸素イオン導電性を示すようになる.この性質を利用して,種々のジルコニア酸素センサーがつくられている.外因的不定比性を利用した材料には,このほかに原子価制御半導体などがある.

_images/2-3.jpg

図 20 CaOを添加したZrO2の点欠陥

図中の小さな黒丸はZr4+イオン,大きな黒丸がZr4+の格子点に置換したCa2+イオン,白丸はO2–イオン である.

転位

転位の幾何学

 結晶中には 転位(dislocation) と呼ばれる線欠陥が存在している.双晶変形のような特別の場合を除いて,結晶の塑性変形は転位の運動によって生じる.

  図 21 は,網目を入れた領城の上部と下部が互いに \(b\) だけ変位した状態を示している.転位は,この変位した領城と変位していない領城の境界線として定義される.また,変位ベクトル \(b\)バーガースベクトル(Burgers vector) と呼ばれる.転位線の方向とバーガースベクトルの方向は, 図 21 (a)では互いに直交しており,一方,(b)では平行である.これらの転位はそれぞれ, 刃状転位(edge dislocation) および らせん転位(screw dislocation) と呼ばれる.両者の成分を含む転位は混合転位という. \(b\) が,結晶の並進ベクトルと合致しているものを 完全転位 ,一致しないものを 不完全転位 という.転位は,その末端を結晶内にもつことはなく,閉曲線(ループ)をつくるかあるいは表面や粒界まで達している.

_images/2-4.jpg

図 21 (a)刃状転位 (b)らせん転位

  図 22 は,刃状転位のまわりの原子配列の模式図である.図中の \(\perp\) で示した紙面に垂直な線が転位線であり,転位線の上部に余分な原子面ABが存在している.図からわかるように,転位のまわりでは格子がひずんでいる.このひずみによるエネルギーは, \(|b|^2\) に比例する.この格子ひずみのため,透過電子顕微鏡(transmission electron microscopy, TEM)像では転位は線として観察される. 図 23 は,立方晶ジルコニアの転位網のTEM像である.写真中の黒く見える線が個々の転位線である.この図に見られるような転位網は,転位の安定配列のひとつであり,高温で焼きなました結晶中にしばしば見られるものである.

_images/2-5.jpg

図 22 刃状転位のまわりの原子配列

_images/2-6.jpg

図 23 立方晶ジルコニアの転位網

すべり運動と上昇運動

 転位が, すべり面(slip plane) と呼ばれる特定の面上を すべり運動 すると,結晶は塑性変形する.転位線およびそのバーガースベクトルがすべり面内にあれば,その転位はすべり運動できる.転位のすべり面とすべり方向を組み合わせて, すべり系(slip system) と呼ぶ. 表 2 は,種々の結晶構造をもつ物質のすべり系をまとめたものである.この表において,{ }で示されているのがすべり面,〈 〉がすべり方向を表す.

表 2 種々の結晶の1次すべり系

結晶構造

1次すべり系

面心立方(FCC)

Cu, Ni, γ-Fe

\(\{111\} \langle 1 \bar{1} 0 \rangle\)

体心立方(BCC)

Mo, W, α-Fe

\(\{110\} \langle 1 \bar{1} 1 \rangle\)

最密六方(HCP)

Mg, Zn, α-Ti

\(\{0001\} \langle 1 1 \bar{2} 0 \rangle\)

ダイヤモンド

ダイヤモンド, Si, Ge

\(\{111\} \langle 1 \bar{1} 0 \rangle\)

NaCl

NaCl, MgO

\(\{110\} \langle 1 \bar{1} 0 \rangle\)

面心立方 (FCC)
体心立方 (BCC)
最密六方 (HCP)
ダイアモンド NaCl

 隣接するすべり面間の間隔をhとすると,面心立方(FCC)構造あるいは体心立方(BCC)構造をもつ金属材料の多くは,バーガースベクトルの大きさとこの間隔の比|b|/hが最小という幾何学的関係ですべり系が選択される傾向がある.この場合,FCC結晶のすべり系が{111}〈110〉であるように,すべり系はその結晶の最密面と最密方向になっている.しかし,イオン結晶ではこの傾向が見られない.たとえば,NaCl構造を有する結晶では,|b|/hが最小となるすべり系は{100}〈011〉である.しかし,このすべり系が活動するのはまれであり,マグネシア(MgO)など多くのNaCl構造を有する結晶のすべり系は \(\{110\} \langle 1 \bar{1} 0 \rangle\) である.イオン結晶では上記のような幾何学的関係よりも,すべりに際して陽イオンが近づくことがないという制約がより重要である.NaCl構造では,{100}〈011〉すべりが生じると,途中で陽イオン間隔がかなり接近する.ところが, \(\{110\} \langle 1 \bar{1} 0 \rangle\) すべりでは陽イオン間隔は不変であり,このためにすべり系として選択されると考えられている.

 刃状転位は,すべり運動だけでなく 上昇運動(climb) によっても移動し,塑性変形に寄与する.たとえば, 図 22 に示されている 刃状転位 の矢印の原子が空孔と置換すると,転位は転位線に垂直な方向に1原子分移動することになる.これが上昇運動である.上昇運動は,空孔あるいは原子の移動によって起こる非保存運動である.したがって,上昇運動は固体中での拡散が起こるような高温領域で起こる現象である.一方,すべり運動は物質収支を伴わない保存運動であるので,室温もしくは低温でも起こりうる.

不完全転位と拡張転位

 結晶の原子配列の周期を表す格子ベクトルと一致するバーガースベクトルをもつ転位を 完全転位 という.一方,格子ベクトルとは異なるベクトルをもつ転位は, 不完全転位 と呼ばれる.不完全転位は,特定の格子面に沿って上下の結晶を格子ベクトルと異なるベクトルだけ変位させたときに,エネルギーが極小となるような場合に特に重要となる.その最もよく知られている例が,面心立方結晶の不完全転位である.

 原子を剛体球であるとすると,面心立方結晶の最密面{111}の原子配列は, 図 24 のようになる. 図 24 (a)の面では,球は最も密に配列している.これらの原子の占める格子点をAと書くことにする.立方体に原子を最も密に配列する方法のひとつは, 図 24 (b)および(c)のように,点B,点Cに相当する位置に原子を順次積み重ねていくものである.この場合には,{111}面の積層はABCABC…となる.これは,面心立方結晶の原子配列にほかならない.この積層をABABAB…とすると,最密六方結晶となる.

 面心立方結晶の完全転位のバーガースベクトルa/2〈110〉は,{111}面上にあり, 図 24 (a)のベクトルBBに等しい.このベクトルをa/2 [110]と書き,ベクトルのx,y,z成分がそれぞれa/2, a/2, 0であることを表す. 図 24 (a)の原子配列を見ると,大きな変位BBは,2つの小さな変位BCおよびCBによっても起こりうることがわかる.これらの変位はそれぞれ,a/6[121], a/6 \([2 1 \bar{1}]\) であり,面心立方結晶の代表的な不完全転位(部分転位ともいう)のバーガースベクトルである.この不完全転位は,しばしば ショックレー(Shockley)の部分転位 と呼ばれる.1本の完全転位が2本のショックレ一部分転位に分かれる反応は,

(24)\[\frac{a}{2}[110] \longrightarrow \frac{a}{6}[121] + \frac{a}{6}[21\bar{1}]\]

と書かれる.

_images/2-7.jpg

図 24 面心立方結晶の(111)面の原子の積み重なり

 転位のエネルギーは \(|b|^2\) に比例する.バーガースベクトルの大きさは,完全転位a/2[110] でa/\(\sqrt{2}\) , 不完全転位a/6[121]ではa/\(\sqrt{6}\) であるから,式 (24) のように,1本の完全転位が2本の不完全転位に分解する反応によって,転位のエネルギーは減少することになる.このことが,FCC結晶中にショックレ一部分転位が形成されるひとつの理由である.

 FCC結晶中に,a/6〈112〉の不完全転位を1本導入すると,Bの原子面がCまでずれることになり,{111}面の積層は… ABCA|CABC…となる.この場合には,縦線を入れた個所で原子面の積み重なりの順序が変わることになる.このような原子面の積層の乱れを, 積層欠陥(stacking fault) という.これは,面欠陥の一種である.式 (24) の反応が生じると, 図 25 のように2本の不完全転位の間に積層欠陥ができることになる.積層欠陥を含む不完全転位対を 拡張転位(extended dislocation) という.

  表 3 には,種々の結晶中の完全転位の分解反応の例を示す.

表 3 種々の結晶中の転位の分解反応の例

結晶構造

分解反応

面心立方(FCC)

\(a/2[110] \rightarrow a/6[121] + a/6[21\bar{1}]\)

体心立方(BCC)

\(a/2[111] \rightarrow a/3[111] + a/6 [111]\)

最密六方(HCP)

\(a/3[2\bar{1}\bar{1}0] \rightarrow a/3[10\bar{1}0] + a/3[1\bar{1}00]\)

ダイヤモンド

\(a/2[110] \rightarrow a/6[121] + a/6[211]\)

NaCl

\(a/2[110] \rightarrow a/2[100] + a/2[010]\)

_images/2-8.jpg

図 25 面心立方結晶中の刃状転位の拡張

結晶粒界

結晶粒界の構造

 多くの物質は,結晶粒の集合体である.結晶粒間の境界は,結晶粒界(grain boundary)あるいは単に粒界と呼ばれる.結晶粒界は特有の遷移構造を有しており,その幅は原子面間隔程度である.結晶粒界を挟む両側の結晶粒は,互いにその方位が異なっている.両者の結晶は,ある回転軸 \(u\) のまわりに角度θだけ回転させることによって一致させることができる.このため,2つの結晶粒の方位関係はしばしば, \(u\) とθを用いて記述される.

 結晶粒界面法線ベクトルを \(n\) とすると, \(n\)\(u\) の関係によって. 図 26 のような2種類の特殊な粒界を定義することができる. 図 26 (a)は \(n \perp u\)傾角粒界(tilt boundary) であり,(b)は \(n // u\)ねじり粒界(twist boundary) である.一般の粒界は.傾角成分とねじり成分の2種類の回転成分を有している.

 2つの結晶粒間の方位差の小さい粒界は, 小角粒界(small angle boundary) と呼ばれる.小角粒界は転位配列によって記述することができ,小角の傾角粒界およびねじり粒界は.それぞれ刃状転位およびらせん転位網になっている. 図 27 は.小傾角粒界の模式図である.この粒界は,単一のバーガースベクトル \(b\) をもつ刃状転位が等間隔lで並んだ構造になって いる.このとき,結晶粒間の方位差θは,θ = \(b\)/l で与えられる.小角粒界のエネルギーは,粒界を構成する転位のエネルギーの和として近似的に

(25)\[\gamma \simeq \frac{Gb\theta}{4\pi(1-\nu)}(A - \ln \theta)\]

と書かれる.ここで,Gは剛性率,νはポアソン比,Aは定数である.式 (25) が成り立つのは,θがおよそπ/12ラジアンまでであるといわれている.

 θがこれ以上大きな粒界の構造は,一般にかなり乱れたものである.しかし,θの大きい大角粒界の中にも,隣接する結晶粒の原子配列および粒界構造に規則性をもつ粒界がある.その代表的なものが 対応粒界(coincidence boundary) である.この粒界は,両側の結晶の格子点を粒界を越えて延長したときに.両結晶に共通な格子点をもつ.このような共通の格子点を総称して 対応格子 と呼ぶ.

_images/2-9.jpg

図 26 傾角粒界とねじり粒界

_images/2-10.jpg

図 27 小傾角粒界 単一のバーガースベクトルをもつ転位群でつくられるこの傾角粒界は.粒界を狭んで原子配列が対称である.

_images/2-11.jpg

図 28 Σ11対応粒界の原子配列 AB,CDが対応粒界.BCはステップである.

表 4 立方晶の対応粒界

Σ

回転軸

回転角/°

対称傾角粒界面

3

[110]

70.53

\((1\bar{1}2),(1\bar{1}1)\)

[111]

60.00

\((11\bar{2}\))

5

[100]

36.87

\((012), (013)\)

7

[111]

38.21

\((12\bar{3}\))

9

[110]

38.94

\((2\bar{2}1), (1\bar{1}4)\)

11

[110]

50.48

\((1\bar{1}3), (3\bar{3}2)\)

13a

[100]

22.62

\((023), (015)\)

13b

[111]

27.80

\((13\bar{4})\)

17a

[100]

28.07

\((014), (035)\)

17b

[110]

86.63

\((2\bar{2}3), (3\bar{3}4)\)

19a

[110]

26.53

\((3\bar{3}1), (1\bar{1}6)\)

19b

[111]

46.83

\((23\bar{5})\)

  図 28 は,立方晶の対応粒界の例である.この場合,黒丸で示した原子が対応格子点であり, この原子数は2つの結晶粒の全格子点の数の1/11である .この粒界を Σ11対応粒界 と呼ぶ. 表 4 は,立方晶の対応粒界の例を示している.小さなΣ値をもつ対応粒界は,ランダム粒界よりもエネルギーが低い.その特殊なものが 双晶粒界 である.たとえば,[110]軸まわりに70.5°回転して得られるΣ3粒界のうち,粒界面が(111)であるものがFCC結晶の整合双晶粒界である.また,対応方位関係からわずかにずれた方位を有する粒界の構造は,粒界転位を含む対応粒界として記述できる.このような粒界は,対応方位関係からのずれΔθが \(\pi/12\sqrt{\Sigma}\) 内のものであるといわれている.

粒界エネルギー

 多結晶体の粒界三重点では,局所的に粒界エネルギーの釣合いが保たれている. 図 29 (a)において,界面張力の釣合いは,粒界面のなす角度θ1, θ2, θ3を用いて,

(26)\[\frac{\gamma_1}{\sin \theta_1} = \frac{\gamma_2}{\sin \theta_2} = \frac{\gamma_3}{\sin \theta_3}\]

と書かれる.ここで,界面張力γ1,γ2,γ3は粒界エネルギーに相当するものである.3つの粒界のエネルギーが等しければ,θ1= θ2= θ3= 120°となる.純金属の粒界エネルギーは1 J/m3程度である.

_images/2-12.jpg

図 29 界面張力の釣り合い(a)粒界三重点(b)粒界と液相

 金属やセラミックスを粉末焼結法によって作成する場合には,しばしば粒界に液相が生じる.この液相が,焼結温度において 図 29 (b)のように,粒界三重点に存在しているとすると,界面エネルギーの釣合いは,

(27)\[2\gamma_{SL} \cos \frac{\theta}{2} = \gamma_{SS}\]

で与えられる.ここで,γSSは粒界エネルギー,γSLは固液界面エネルギーである.このときには,角度θがぬれ性の目安となる.θ = 0°であれば,粒界は液相によって完全にぬれることになる.θが大きくなるにつれてぬれ性は低下し,θ = 90°になると液相は粒界三重点にのみ存在するようになる.焼結助剤としてはθの小さなものがよい.