10. Thermo-Calcの状態変数¶
この章では Thermo-Calc で使われている状態変数について説明します。 本説明書では温度と組成(いくつかの成分の濃度)を座標軸とした一般的な「状態図(Phase Diagrams,相図)」を念頭に置いています。しかし座標軸の選び方よって,数多くの「状態図」が考えられます。 例えば,活量を座標軸に取った図は「ポテンシャル図」であり,電位(Eh)とpHを軸に描いた「電位-pH図」はプールベイ(Pourbaix)図とも呼ばれていますが,これらも「状態図(State Diagrams)」です。
熱力学における基本の状態変数の数は限られていますが,以下に説明するように,派生する変数は多数あります。 Thermo-Calcでは規則性を持って派生する変数を定義しているので,その規則性を理解すれば容易に多くの変数を使いこなせると思います。またThermo-Calcにはユーザが独自に変数を定義する機能を有するので,使える変数はさらに増えます。これら多くの変数からこれまでにはない新しい状態図を考え,そこから新しい知見が得られる可能性があります。
10.1. 標準状態変数¶
10.1.1. 示強変数¶
示強変数には 温度,圧力,化学ポテンシャル,活量があります。示強変数の値は平衡状態では系全域で一定で,系の大きさに依存しません。
記号 | 説明 |
---|---|
T | 温度 (K) |
P | 圧力 (Pa) |
MU ( comp ) | 成分 comp の化学ポテンシャル (J/mol) |
AC ( comp ) | 成分 comp の活量 単位なし |
LNAC ( comp ) | 成分 comp の活量の対数 単位なし |
注釈
comp は成分の名前 ( 元素あるいは化学種 )
温度 T,圧力 P は通常用いられている変数と同じです。化学ポテンシャル MU,活量 AC とその自然対数 LNAC はいずれも成分 comp の指定を伴います。化学ポテンシャル MU,活量 AC は一般にはそれぞれ µ, a という変数が用いられます。
(注意) ただし,ここで説明している化学ポテンシャル MU と活量 AC は,通常用いられている変数とは基準状態が異なります。 通常用いられている変数は「補遺.3 基準状態と相対値」で説明する MUR と ACR に対応します。
熱力学ではエネルギーの絶対値を実測することができないので,各元素成分について 圧力 101325 Pa,温度 298.15 K における安定状態(相)のエンタルピーを基準に用います。 このエンタルピーを H298 と書くと, H298 = 0 とすることです。 これを標準状態と言います。
化学ポテンシャルと活量は基本的には同じもので,次の関係があります。
MU ( comp ) = H298 ( comp ) + R T ln ( AC ( comp ) )
ただし H298 ( comp ) = 0
また LNAC ( comp ) = ln ( AC ( comp ) ) の関係です。ここで comp は成分名(元素あるいは化学種)としています。
10.1.2. 示量変数¶
示量変数には 系の大きさ (原子数),質量,体積,Gibbsエネルギー,エンタルピー,エントロピー,内部エネルギーがあります。示量変数は系の大きさに依存し,また多相系では場所(相)によっても異なります。
系の大きさは総原子数として N,その質量は B, 体積は V で表します。系全体のGibbsエネルギー G,エンタルピー H,エントロピー S,内部エネルギー U は通常用いられている変数と同じです。原子数は mol,質量は g,Gibbsエネルギー,エンタルピー,内部エネルギーは J(joule),エントロピーは J/K の単位を用います。
相の大きさ ( 原子数 ),質量,体積,Gibbsエネルギー,エンタルピー,エントロピー,内部エネルギーは相名を伴って表します。 ただし,原子数と質量だけは変数名に "Phase" の頭文字"P"を付けて NP ( ph ),BP ( ph ) と表します。 体積は V ( ph ), VP ( ph ) のどちらでも使えます。 ここで ph は相の名前としています。 以上をまとめて下表に示します。
記号 | 説明 |
---|---|
N | 系全体の原子数 (単位 mol) |
B | 系全体の質量 (単位 g) (非SI単位) |
V | 系全体の体積 (単位 m3) |
G | 系全体のGibbsエネルギー (単位 J) |
H | 系全体のエンタルピー (単位 J) |
S | 系全体のエントロピー (単位 J/K) |
U | 系全体の内部エネルギー (単位 J) |
NP ( ph ) | 相 ph の原子数 (単位 mol) |
BP ( ph ) | 相 ph の質量 (単位 g) (非SI単位) |
V ( ph ) | 相 ph の体積 (単位 m3) |
VP ( ph ) | 相 ph の体積 (単位 m3) VP ( ph ) = V ( ph ) |
G ( ph ) | 相 ph のGibbsエネルギー (単位 J) |
H ( ph ) | 相 ph のエンタルピー (単位 J) |
S ( ph ) | 相 ph のエントロピー (単位 J/K) |
U ( ph ) | 相 ph の内部エネルギー (単位 J) |
注釈
ph は相の名前 , N ( ph ), B ( ph ) はありません
系全体における成分については,原子数を N ( comp ),質量を B ( comp ) で表します。 相中の成分については相名も指定して,原子数はN(ph,comp),質量はB(ph,comp)と表します。 これらをまとめて,下表に示します。
記号 | 説明 |
---|---|
N ( comp ) | 成分 comp の原子数 (単位 mol) |
B ( comp ) | 成分 comp の質量 (単位 g) (非SI単位) |
N ( ph, comp ) | 相 ph 中の成分 comp の原子数 (単位 mol) |
B ( ph, comp ) | 相 ph 中の成分 comp の質量 (単位 g) (非SI単位) |
10.2. 示量変数の示強性化(規格化)¶
示量変数も全体からの相対値で表すと系の大きさに依存しない示強性を持ちます。 濃度や密度がその代表的な例です。 Thermo-Calc ではいろいろな相対表記を用いることができます。一般的な規則は以下のようになっています。
ここでは示量変数 N,NP,B,BP,V,VP,G,H,S,U の記号を Z で表します。 この Z に ZM と M を付けて原子 1 mol 当たりの値を表します。 また ZW と W を付けて単位質量 ( g ) 当たりの値を,ZV と V を付けて単位体積 ( m3 ) 当たりの値を表します。相や成分についての Z ( ph ),Z ( comp ),Z ( ph, comp ) にも同様に適用できます。 また相についての場合には ZF ( ph ) と F を付けて化学式 1 mol 当たりの値を表します。以上をまとめて下表に示します。
記号 | 説明 |
---|---|
Z | 系全体の z の量 |
ZM | 系全体の z の原子 1mol 当たりの量 ( /mol ) |
ZW | 系全体の z の 1 g 当たりの量 ( /g ) |
ZV | 系全体の z の単位体積当たりの量 ( /m3 ) |
Z ( ph ) | 相 ph の z の量 |
ZM ( ph ) | 相 ph の z の原子 1mol 当たりの量 ( /mol ) |
ZW ( ph ) | 相 ph の z の 1 g 当たりの量 ( /g ) |
ZV ( ph ) | 相 ph の z の単位体積当たりの量 ( /m3 ) |
Z ( comp ) | 成分 comp の z の量 |
ZM ( comp ) | 成分 comp の z の原子 1mol 当たりの量 ( /mol ) |
ZW ( comp ) | 成分 comp の z の 1 g 当たりの量 ( /g ) |
ZV ( comp ) | 成分 comp の z の単位体積当たりの量 ( /m3 ) |
Z ( ph, comp ) | 相 ph 中の成分 comp の z の量 |
ZM ( ph, comp ) | 相 ph 中の成分 comp の z の原子 1mol 当たりの量 ( /mol ) |
ZW ( ph, comp ) | 相 ph 中の成分 comp の z の 1 g 当たりの量 ( /g ) |
ZV ( ph, comp ) | 相 ph 中の成分 comp の z の単位体積当たりの量 ( /m3 ) |
注釈
comp は成分の名前 ( 元素あるいは化学種 ) , ph は相の名前
いくつかの具体例を示すと,この規則から BV は系の密度,BV ( ph ) は相 ph の密度を表します。 NPM ( ph ),BPW ( ph ) は相 ph の存在率で,前者はモル分率,後者は質量分率で表しています。例外として VV ( ph ) は使えません。体積分率は VPV ( ph ) の方を用います ( ただし,すべてのデータベースに体積データが定義されている訳ではありません )。
NM ( comp ),NM ( ph, comp ) は成分 comp のモル分率を,BW ( comp ),BW ( ph, comp ) は成分 comp の質量分率を表します。 なお,成分のモル分率,質量分率にはそれぞれ X,W と一般によく用いられている変数も使えます。これまでの説明では成分の濃度に NM,BW の代わりに X,W を用いています。下表に濃度の主なものをまとめて示します。
記号 | 説明 |
---|---|
NPM ( ph ) | 系の原子 1 mol 当たりの相 ph の存在率 ( モル分率 ) |
BPW ( ph ) | 系1g当たりの相 ph の存在率 ( 質量分率 ) |
VPV ( ph ) | 系の単位体積当たりの相 ph の存在率 (体積分率) |
注釈
ph は相の名前, VV ( ph ) はありません
記号 | 説明 |
---|---|
NM ( comp ) | 系全体の成分 comp の濃度 ( モル分率 ) |
X ( comp ) | 同上 |
BW ( ph ) | 系全体の成分 comp の濃度 ( 質量分率 ) |
W ( comp ) | 同上 |
NM ( ph, comp ) | 相 ph 中の成分 comp のの濃度 ( モル分率 ) |
X ( ph, comp ) | 同上 |
BW ( ph, comp ) | 相 ph 中の成分 comp の濃度 ( 質量分率 ) |
W ( ph, comp ) | 同上 |
注釈
comp は成分の名前, ph は相の名前
10.3. 基準状態と相対値¶
熱力学ではエネルギーを表すとき,各元素成分の 101325 Pa,298.15 K における安定状態のエンタルピーを基準とする標準状態の外に,任意の状態におけるエネルギーを基準として表す方法がよく用いられます。 このとき基準とする状態を基準状態と言います。
一般に化学ポテンシャルや活量は,各成分について当該温度,当該圧力におけるある状態(相)のエネルギーを基準状態として表します。 この状態は安定状態でなくても構いません。 このときの Gibbsエネルギー,エンタルピー,エントロピー,内部エネルギーをそれぞれ GREF ( comp ), HREF ( comp ), SREF ( comp ), UREF ( comp ) と表すことにします。
Thermo-Calc では基準状態を用いた化学ポテンシャルを MUR ( comp ),活量を ACR ( comp ) と Reference の頭文字 " R " を付けて表します。これらは MU,AC と同様に以下の関係にあります。
MUR ( comp ) = GREF ( comp ) + R T ln ( ACR ( comp ) )
なお,通常 GREF ( comp ) はゼロではありません。 また LNACR ( comp ) = ln ( ACR ( comp ) ) の関係です。 この MUR ( comp ) と ACR ( comp ) が一般に用いられている化学ポテンシャル µcomp と活量 acomp です。
同様に,示量変数の Gibbsエネルギー,エンタルピー,エントロピー,内部エネルギーも基準状態を用いた値はそれぞれ GR, HR, SR, UR と Reference の頭文字 " R " を付けて参照します。
材料科学・材料組織学の分野では準安定状態からある相が晶出・析出するときの駆動力 ( Driving Force ) を考えることがあります。 Thermo-Calc は目的の相について晶・析出の駆動力が最大の値とその時の組成を計算する機能を持っています。 駆動力 DG は基本的には Gibbsエネルギー ( の差 ) で示量変数ですが,他の示量変数と違って,"必ず" M,W,V または F を付け DGM ( ph ),DGW ( ph ),DGV ( ph ),DGF ( ph ) と示強性化(規格化)して用います。 なお,これらの数値は "-RT " で割って無次元化されています。
化学ポテンシャルと活量は示強変数で,温度や圧力と同様に平衡状態では系全域で場所によらず同じ値です。 一般には平衡ではない相の組成がどのようになるかという法則はありません。 したがって,非平衡相の化学ポテンシャルと活量は計算できません。 しかし,上述した駆動力を考えている場合には,晶・析出相の組成も特定されるので,この組成における化学ポテンシャルと活量は計算することができます。 Thermo-Calc ではこのような化学ポテンシャルと活量を MUR ( comp. ph ),ACR ( comp, ph ) と成分 comp と相 ph を指定して参照します。 ここで,成分と相の指定順が濃度の時と逆になっているので注意が必要です。 当然ですが,相 ph が平衡相の場合には系全体の値と等しくなります。
これらを下表にまとめて示します。
記号 | 説明 |
---|---|
GR | 系全体のGibbsエネルギー (単位 J) |
HR | 系全体のエンタルピー (単位 J) |
SR | 系全体のエントロピー (単位 J/K) |
UR | 系全体の内部エネルギー (単位 J) |
MUR ( comp ) | 成分 comp の化学ポテンシャル (単位 J/mol) |
ACR ( comp ) | 成分 comp の活量 |
LNACR ( comp ) | 成分 comp の活量の対数 |
MU ( comp, ph ) | 相 ph における成分 comp の化学ポテンシャル (標準状態基準) |
MUR ( comp, ph ) | 相 ph における成分 comp の化学ポテンシャル (標準状態基準) |
AC ( comp, ph ) | 相 ph における成分 comp の活量 (標準状態基準) |
ACR ( comp, ph ) | 相 ph における成分 comp の活量 (基準状態基準) |
LNAC ( comp, ph ) | 相 ph における成分 comp の活量の対数 (標準状態基準) |
LNACR ( comp, ph ) | 相 ph における成分 comp の活量の対数 (基準状態基準) |
DGM ( ph ) | 相 ph の原子 1 mol 当たりの駆動力 |
DGW ( ph ) | 相 ph の 1 g 当たりの駆動力 |
DGV ( ph ) | 相 ph の単位体積当たりの駆動力 |
DGF ( ph ) | 相 ph の化学式 1 mol 当たりの駆動力 |
10.4. 組成と濃度¶
熱平衡計算の基本はある条件下における一点計算です。 もっとも基本的な「条件」は温度,圧力と組成です。 組成は構成成分の数だけの変数があります。 原理的には条件の中の二つの変数を X 軸,Y 軸に設定し,グラフ面上を網羅するように一点計算を行うことで状態図を得ることができます。
この基本的な「条件」のうち示強変数の温度と圧力については説明の必要がないでしょう。
残りの組成を,これまでの説明では系全体の大きさ ( 原子数 ) N と構成成分の濃度 ( モル分率または質量分率 ) を用いて設定しました。 しかし Thermo-Calc にはいろいろな設定の仕方があります。 これらを理解すると,一般的な状態図だけでなく,多様な状態図を計算作図することができます。
10.4.1. 組成の設定¶
Thermo-Calc では基本的にはすべての構成元素のモル数 ( 原子数 ) を設定します。 この場合,系の大きさ ( 原子 数) N は従属変数となり,構成成分の総和で決まります。 質量 B はモル数に原子量を掛けるだけなので,モル数 N を用いるのと質量 B を用いるのは同値です。
これまでの例では系の大きさを一つの条件として用いています。 この場合は成分のどれか一つが従属変数となり,残りの成分の濃度を設定することになります。 以下にいくつかを例示します。
- 例 1 - 1 ) Fe-5 mol % Cr-1 mol % Mo の設定
- N ( Fe ) = 0.94, N ( Cr ) = 0.05, N ( Mo ) = 0.01
- N = 1, N ( Cr ) = 0.05, N ( Mo ) = 0.01
- N = 1, X ( Cr ) = 0.05, X ( Mo ) = 0.01
- N ( Fe ) = 94, N ( Cr ) = 5, N ( Mo ) = 1
- N = 100, N ( Cr ) = 5, N ( Mo ) = 1
- N = 100, X ( Cr ) = 0.05, X ( Mo ) = 0.01
この例では 1,2,3 の三つの設定は同値です。また 4,5,6 の三つの設定も同値です。なお,1,2,3 では系の大きさ ( 原子数 ) N が 1 mol であり,4,5,6では N が 100 mol です。これらの条件設定での平衡計算の結果は示量変数の値が後者は前者の 100 倍であることを除いてすべて同じです。
- 例 1 - 2 ) Fe-5 mass % Cr-1 mass % Mo の設定
- B ( Fe ) = 0.94, B ( Cr ) = 0.05, B ( Mo ) = 0.01
- B = 1, B ( Cr ) = 0.05, B ( Mo ) = 0.01
- B = 1, W ( Cr ) = 0.05, W ( Mo ) = 0.01
- B ( Fe ) = 94, B ( Cr ) = 5, B ( Mo ) = 1
- B = 100, B ( Cr ) = 5, B ( Mo ) = 1
- B = 100, W ( Cr ) = 0.05, W ( Mo ) = 0.01
これらは例 1 - 1 )の N → B,X → W に置き換えた例です ( もちろん,濃度単位が違うので異なる組成です )。 従ってこの例でも例 1 - 1 ) と同様に 1,2,3 の三つの設定は同値で,4,5,6 の三つの設定も同値です。 1,2,3 では系の大きさ ( 質量 ) B が 1 g であり,4,5,6では B が 100 gなので,平衡計算の結果も示量変数の値が後者は前者の 100 倍であることを除いてすべて同じです。
10.4.2. 断面の設定¶
等温または等圧の条件下であれば 1 ) で述べたの方法で二元系の全組成域を網羅する二次元の状態図を作図できます。 また,等温および等圧の条件下であれば三元系については,どれか二つの成分の濃度を X 軸,Y 軸として全組成域の状態図を作図できます。 しかし,三元系でも温度あるいは圧力を座標軸の一つに選んだ場合や四元系以上の多元系では 1) の方法で,組成の全領域を網羅する状態図を一つの図として作図することができません。 このような場合一般には,ある組成断面を選んで作図する方法を用います。
Thermo-Calc では計算条件を設定する状態変数の代わりに,状態変数の「一次結合式」を用いることができます。 例えば X ( Cr ) = X ( Ni ) + 0.1 は,これを変形すると X ( Cr ) - X ( Ni ) = 0.1 となります。 Thermo-Calc は この左辺の式を一種の変数と扱い,右辺にその値を設定します。 左辺のような一次結合式を変数項と呼ぶことにします。 この変数項は計算軸や作図軸としても指定することができます。 しかし,変数項に状態変数のべき乗や状態変数同士の乗除算を含めることはできません。 なお,このような変数(項)を条件に用いている場合は Global Minimization 機能を用いられないので注意が必要です。
以下にいくつかの例を示します。
例 2 - 1 ) Cr と Ni のモル比が等しい
X ( Cr ) : X ( Ni ) = 1 : 1 → X ( Cr ) - X ( Ni ) = 0
例 2 - 2) Cr と Ni のモル比が 1 : 2
X ( Cr ) : X ( Ni ) = 1 : 2 → 2 * X ( Cr ) - X ( Ni ) = 0
例 2 - 3 ) Al-Si-Zn 三元系で Al-5 mass % Si と Si-60 mass % Zn を結ぶ線上
- X ( Si ) と X ( Zn ) を独立変数に取りそれぞれを X 座標,Y 座標とすると,上記の条件は点 ( 5, 0 )と点( 40, 60 ) を結ぶ線上となる。これより
- → 60 * W ( Si ) - 35 * W ( Zn ) = 3
例 2 - 4 ) Co-Cr 二元系において BCC_A2 相とσ ( SIGMA ) 相の組成が一致
つまり X ( BCC_A2, Cr ) = X ( SIGMA, Cr ) → X ( BCC_A2, Cr ) - X( SIGMA, Cr ) = 0
いずれの場合もこのような条件を用いたい場合は,設定直後にいきなり計算 ( COMPUTE_ EQUILIBRIUM ) を行ってもうまく計算できない場合が多い。このような場合でも,まずは目的の条件に近いところで一般的な組成を用いた条件設定で一点計算を行い,その後上記のような条件に設定して計算をします。
10.5. 格子占有率¶
状態図計算では成分の濃度を表す変数として「補遺.2 示量変数の示強性化 ( 規格化 )」で述べた変数の外に「格子占有率」があります。
規則化する相や侵入型成分を含む相では結晶格子を複数の副格子に分けて取り扱います。 このとき各副格子上の成分濃度を格子占有率 ( Site Fraction ) と呼びます。 この値は常にそれぞれの副格子上でのモル分率で表します。 その際,空孔子点を考慮している副格子では空孔子点も一つの成分と扱い成分名には Va を用います。
- 格子占有率は次のように表します。
- Y ( ph, comp # sub )
ここで ph は相名,comp は成分名,sub は副格子の番号です。" # sub " を省いた場合は " #1 " として扱われます。
10.6. 微分(偏導関数)¶
Thermo-Calc では変数 Y を変数 X で微分することができます。これは " Y . X " と変数を " . " ( ピリオッド ) で繋いで記述します。 「8.4.5 ユーザ関数を追加する」でも説明しましたが,モルエンタルピーの温度での微分 " HM . T " は,モル比熱となります。 この機能でさらに扱える変数・関数が増えます。 ただし,変数 Y と変数 X は論理的に矛盾しない組み合わせあることは当然です。 たとえば " T . X(Cr) " は相境界線温度の Cr 濃度による変化量を表しますが,このとき一点計算の結果は目的とする相境界を指しているべきです。