2. 合金状態図の計算手順

 ここでは計算状態図作成の一例として,Fe-C 二元系状態図の計算をモジュールごとに説明して行きます。 この一連の操作は他の状態図の計算でも同じですが,二相分離を起こす場合など一部については別に説明しています。 また,ここで述べるコマンド以外にも便利なコマンドがたくさんあります。 一部については後に説明しますが,これらすべてをここで説明することはできません。 幸い TC はオンライン・ヘルプが充実しているので,もっと詳しく知りたい方はこれを利用して大いに学んで下さい。

2.1. 計算の流れ

 計算状態図を作成する際の一般的な計算の流れを示すと,次のようになります。

SYSTEM_UTILITIES MODULE
(DATABASE_RETRIEVAL モジュールへ行く)
DATABASE_RETRIEVAL MODULE
(合金系の定義,データベースからのパラメータの取り込み)
GIBBS_ENERGY_SYSTEM MODULE
(熱力学的パラメータの確認,追加および変更)
(ただし,暗号化されたデータベースを用いる場合は不可)
POLY_3 MODULE
(計算条件の設定,平衡計算および結果出力)
POST sub-MODULE
(計算結果を画面上にグラフとして表示)

2.2. SYSTEM_UTILITIES モジュール

 このモジュールは TC セッションにおける最初のモジュールで,主に TC 全体にわたる設定を行います。 ここにも便利なコマンドがありますが,普通は何の操作もすることなしに,すぐに DATABASE_RETRIEVAL モジュールへ行きます。 モジュール間の移動には GOTO_MODULE コマンドを用います。:

SYS:  GO      [GOTO_MODULE]
MODULE-NAME:  DA      [DATABASE_RETRIEVAL]
 THERMODYNAMIC DATABASE module
 Current database: KIT version Solution Database

 VA  DEFINED
 B2_BCC   REJECTED
TDB_KIT:                         ← DATABASE_RETRIEVALモジュールのプロンプト

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 SYS:  GO  DA

2.3. DATABASE_RETRIEVAL モジュール

 このモジュールでは計算に用いる熱力学データースの選択と合金系の定義を行います。 どのデータベースを用いるかを選択することは重要ですが,この点については 8 章【便利なコマンド】の 8.2 節で説明します。

 プロンプトは " TDB_xxx : " です。 ここで " xxx " は現在使用しているデータベース名を表しており,使用するデータベースを変更するとこれも変わります。 データベースの変更は SWICH_DATABASE コマンドを用いますが, この使い方は 3 章【二相分離領域が存在する状態図の計算】の 3.1 節で説明します。  この章の実行例では KIT データベースを用いているとして説明します。

2.3.1. 系の定義

 まず,計算を行いたい合金系を定義します。 これには DEFINE_ELEMENTSDEFINE_SYSTEM コ マンドを用います。:

TDB_KIT:  D-SYS      [DEFINE_SYSTEM]
SPECIES:  FE  C
FE                           C   DEFINED

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 TDB_KIT:  D-SYS  FE  C

データベースによっては質問 "SPECIES :" は "ELEMENTS :" となる場合がありますが,一般の合金系では SPECIES (化学種) と ELEMENT (元素) は同じものと考えても差し支えありません。

2.3.2. 相の選択

 合金系を定義した段階では,その系を構成する元素が関連しているデータベース内のすべての相が選択されます。 最初はそのまま 2.3.3「パラメータの取り込み」に進んでもよいでしょう。 しかし,そのままでは定義した合金系に直接関係のない相までが平衡計算の対象となることがあり,計算がうまくできない原因にもなることがあります。 このような場面に遭遇したときには,ここで説明する手順を用いて,明らかに無関係と分かる相はあらかじめ取り除いた方がよいでしょう。 現在どのような相が計算の対象となるのかを知るには LIST_SYSTEM コマンドを用います。:

TDB_KIT:  L-SYS      [LIST_SYSTEM]
ELEMENTS, SPECIES, PHASES OR CONSTITUENTS:  / CONSTITUENT / :
 GAS:G             : FE :
 LIQUID:L       : C  FE :
 FCC_A1          : FE : VA  C :
  > This is also the MC(1-x) carbide or nitride

    :               (中 略)

 FE4N              : FE : C :

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 TDB_KIT:  L-SYS , ,

 相の選択には REJECTRESTORE コマンドを用います。 方法には以下のように三通りあります。 また,相名の入力にもコマンドと同様に省略形を用いることができます。

(1) 不要な相のみを取り除く:

TDB_KIT:  REJ      [REJECT]
ELEMENTS, SPECIES, PHASES, CONSTITUENTS OR SYSTEM:  / CONSTITUENT /:  PHASES
PHASES:  GAS  HCP_A3  DIA  GRA  CBCC  CUB  K_CAR  M*  FE4N  FECN
 GAS:G                    HCP_A3                       DIAMOND_A4
 GRAPHITE            CBCC_A12                  CUB_A13
 AL5FE4                 KSI_CARBIDE             M23C6

   :         (中 略)            :                               :

 FE4N   REJECTED

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 TDB_KIT:  REJ  P  GAS HCP_A3 DIA GRA CBCC CUB K_CAR M* FE4N FECN

相名の指定で "M*" とは名前が "M" から始まる相すべてを意味します。

(2) 各相ごとに REJECT するかどうかを対話式に決める

 REJECTコマンドの / ? パラメータを用います。:

TDB_KIT:  REJ  P  / ?      [REJECT  PHASES  /?]
To be REJECTED: LIQUID:L  No / Quit / *   / Yes / :
    :

REJECT する場合は [RETURN] (Y または YES),REJECT しない場合は NNO で答えます。 Q あるいは QUIT と入力すると残りは REJECT しないことを意味し, * は残りすべてを REJECT することを意味します。

注釈

REJ P / ?/ は,次に続く文字列が特殊なキーワードであることを示すための記号です。 つまり ? や次に説明する方法に出てくる ALL は相の名前ではないことを TC に教えます。 これはコマンド入力と同じ行でのみ使用できます。

(3) 一旦すべての相を取り除いてから必要な相だけを戻す:

TDB_KIT:  REJ  P  /A      [REJECT  PHASES  /ALL]
 GAS:G                      LIQUID:L              FCC_A1

    :         (中 略)         :                             :

 M5C2                       FE4N   REJECTED
TDB_KIT:  RES      [RESTORE]
ELEMENTS, SPECIES, PHASES, CONSTITUENTS OR SYSTEM:  / CONSTITUENT /:  PHASES
PHASES:  LIQ  FCC  BCC  CEM
 LIQUID:L                FCC_A1                 BCC_A2
 CEMENTITE   RESTORED

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 TDB_KIT:  RES  P  LIQ  FCC  BCC  CEM

2.3.3. パラメータの取り込み

 計算する合金系と考慮する相を確定したら,次はデータベースから計算に必要なパラメータを取り込みます。:

TDB_KIT:  GET      [GET_DATA]
REINITIATING GES5 .....
ELEMENTS .....
SPECIES ......
PHASES .......
PARAMETERS ...

 List of references for assessed data
       :     (中 略)
-OK-

-OKー と表示されたら,一応データの取り込みが完了しています。 しかし,文献リストの後に

UNARY G0 PARAMETERS ARE MISSING
BINARY L0 PARAMETERS ARE MISSING
CHECK THE FILE MISSING.LIS FOR COMPLETE INFO

というメッセージが表示されたときは,基本的情報が不足している,あるいは,ユーザが作成したデータベースを用いている場合は,そのデータベースに問題があることを意味しています。 不足している基本的パラメータのリストは表示のように MISSING.LIS (ver.M までは MISSING.PAR ) ファイルに記録されます。

注釈

なおファイルが作成される場所は ver.R 以前は作業中のディレクトリ下ですが,ver.S から UNIX (Linux) 系では /tmp ディレクトリ下,MS-Windows では環境変数 TEMP で示すディレクトリ下です。 また ver.3.0 からは表示される名前とは異なり MISSING_nnnn.LIS と TC のプロセス番号 nnnn をファイル名に付けるようになっています。 ただし,ファイルが暗号化されているデータベース (TDC データベース) を用いている場合にはこのような不足情報は出力されません。

参) MISSING.LIS は,例えば UNIX (Linux) 系では cat コマンドなどを用いて:

SYS: @cat  MISSING.LIS

とすれば,TC 内からも参照できます。 ただし,ver.S 以降ではファイル名を確認してから行う必要があります。 (MS-Windowsでは TYPEコマンド) MISSING.LIS (ver.3.0以降では MISSING_nnnn.LIS) の1行目には次のタイトルが書かれています。:

LIST OF UNARY AND BINARY PARAMETERS MISSING IN THE DATASET

不足の基本的パラメータがある場合には,このタイトル行の下にリストアップされます。

 前に述べた「計算の流れ」では,次は GIBBS_ENERGY_SYSTEM モジュールとなるはずですが,取り込んだパラメータの確認や修正が不要であれば,GIBBS_ENERGY_SYSTEM モジュールは迂回しても支障ありません。 現在行っている Fe-C 二元系では必要ないので,すぐに POLY_3モジュールへ行きます。:

TDB_KIT:  GO  P-3      [GOTO_MODULE  POLY_3]

 POLY version  3.32
POLY_3:

2.4. POLY_3 モジュール

 POLY_3モジュールは TC の中で最もよく用いるモジュールで,多相間の平衡計算など多様な熱力学的計算が行えます。 プロンプトは "POLY_3:" です。

 POLY_3 における状態図計算の手順と用いるコマンドを示すと

  • 温度,圧力,組成などの設定 → SET_CONDITION
  • 設定条件下での相平衡計算 → COMPUTE_EQUILIBRIUM
  • 状態図の軸設定 → SET_AXIS_VARIABLE
  • 状態図を描くための相平衡計算 → MAP
  • 作図サブモジュールへ移動 → POST

のようになります。

2.4.1. 条件設定

 POLY_3 モジュールで状態図を計算するためには,状態図上の一つ以上の点で相平衡計算(これを一点計算と呼ぶことにします)をしておくことを薦めます。 ここでは,その平衡計算を行う点(条件)を設定するコマンドを説明します。:

POLY_3:  S-C      [SET_CONDITION]
State variable expression:  P
Value  / 100000 /:  101325              ← 101325Pa=1気圧

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 POLY_3:  S-C  P=101325

 設定する条件のうち,温度 T は K,圧力 P は Pa,全原子数 N は mol を単位としています。 濃度には質量分率 W(el) やモル分率 X(el) が用いられます。 ここで "el" には元素名を書きます。 条件設定ではこの他にも活量ACR(el)など多くの状態変数やその組合せが扱えます。 詳しくは, HELP コマンドを使って確認して下さい。 また,複数の条件を次のように同じ行に並べて入力することができます。:

POLY_3:  S-C  P=101325  N=1  T=1300  W(C)=.02

 条件は一点計算が可能になるまで,つまり自由度がゼロになるまで設定する必要があります。 現在の自由度がいくらかを見るには LIST_CONDITION コマンドを使います。:

POLY_3:  L-C      [LIST_CONDITION]
 P=101325, N=1, T=1300, W(C)=2E-2
 DEGREES OF FREEDOM 0

この例では,順に圧力 P 101325 Pa,全原子数 N 1 mol,温度 T 1300 K,C 濃度 (質量分率) W(C) 0.02 (2mass%) ということになります。

 一度設定した条件を除くには,右辺に数値の替わりに NONE を与えます。:

POLY_3:  S-C      [SET_CONDITION]
State variable expression :  W(C)       ← W(C) の
Value  / .02 /:  NONE                   ← 設定を解除

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 POLY_3:  S-C  W(C)=NONE

また,設定したすべての条件を解除するには REINITIATE_MODULE コマンドを用います。:

POLY_3:  REI      [REINITIATE_MODULE]

2.4.2. 平衡計算(一点計算)

 一点計算には COMPUTE_EQUILIBRIUM コマンドを用います。:

POLY_3:  C-E     [COMPUTE_EQUILIBRIUM]
 Using global minimization procedure
 Calculated    980 grid points in                           0 s
 Found the set of lowest grid points in                     0 s
 Calculated POLY solution     0 s,    total time            0 s
POLY_3:

 一回の COMPUTE_EQUILIBRIUM では計算がうまく行かないことがあります。 しかし,あまり気にせずに COMPUTE_EQUILIBRIUM を繰り返してみましょう。 もし,それでも計算できないときには, INFORMATION コマンドで"TROUBLE SHOOTING" の項を参照するか,8章【便利なコマンド】の「8.4.3 計算がどうしてもうまくいかないとき」を参考にしてください。

計算がうまく行かなかったときのエラーメッセージの例を以下に示します。

POLY_3:  C-E
 Normal POLY minimization, not global

 *** ERROR  1612 IN QEQUIL
 *** TOO MANY PHASES TAKING PART IN EQUILIBRIA
 Give the command INFO TROUBLE if you need help!
POLY_3:  C-E
 Automatic start values will be set
 Convergence problem, increasing smallest site fraction from 1.00E-30
 to hardware precision 2.00E-14. You can restore using SET-NUMERICAL-LIMITS

 *** ERROR  1612 IN QEQUIL
 *** TOO MANY PHASES TAKING PART IN EQUILIBRIA
 Give the command INFO TROUBLE if you need help!
POLY_3:  C-E
 *** ERROR  1611 IN QEQUIL
 *** TOO MANY ITERATIONS
 Give the command INFO TROUBLE if you need help!

注釈

計算条件に、例えば濃度の代わりに活量を設定している場合 (Global Minimization が使えない) や,意図的に Global Minimization を用いない設定をしている場合,あるいは Global Minimization 機能を持っていない ver.R より前のバージョンでは次のように表示されます。

2.4.2.1. Global Minimization が使えない場合

POLY_3:  C-E
Normal POLY minimization, not global
Testing POLY result by global minimization procedure
Calculated 980 grid points in 0 s
     24 ITS,   CPU TIME USED   0 SECONDS

2.4.2.2. Global Minimization を用いない設定の場合

POLY_3:  C-E
Global equilibrium calculation turned off, you can turn it on with
ADVANCED_OPTION GLOBAL_MINIMIZATION Y,,,,,,,,
     43 ITS,   CPU TIME USED   0 SECONDS

2.4.2.3. Global Minimization 機能がない旧バージョンの場合

POLY_3:  C-E
     45 ITS,   CPU TIME USED   0 SECONDS

 ここで 24 ITS45 ITS は TC 内部での計算の繰り返し回数を表しています。 Global Minimization を用いていない場合や Global Minimization 機能がない旧バージョンの場合には,次の例のように計算の繰り返し回数が 10 回台以下になるまで少なくとも二度 C-E を実行します。

2.4.2.4. Global Minimization が使えない場合

POLY_3:  C-E
 Normal POLY minimization, not global
 Testing POLY result by global minimization procedure
 Using already calculated grid
     24 ITS,   CPU TIME USED   0 SECONDS
POLY_3:  C-E
 Normal POLY minimization, not global
 Testing POLY result by global minimization procedure
 Using already calculated grid
      6 ITS,   CPU TIME USED   0 SECONDS

2.4.2.5. Global Minimization を用いない設定の場合

POLY_3:  C-E
 Global equilibrium calculation turned off, you can turn it on with
 ADVANCED_OPTION GLOBAL_MINIMIZATION Y,,,,,,,,
     43 ITS,   CPU TIME USED   0 SECONDS
POLY_3:  C-E
      6 ITS,   CPU TIME USED   0 SECONDS

2.4.2.6. Global Minimization 機能がない旧バージョンの場合

POLY_3:  C-E
     24 ITS,   CPU TIME USED   0 SECONDS
POLY_3:  C-E
      6 ITS,   CPU TIME USED   0 SECONDS

 なお,繰り返し数が 10 回台以下であれば, 6 ITS,・・ に固執することはありません。 しかし,この繰り返し数がなかなか小さくならない,あるいは大きく変動する場合は,平衡計算が完全に終わっていない(準安定状態である)可能性があります。 そのままで状態図の計算を行うと間違った結果を得る恐れがありますので,条件を変えて計算してみるようにします。 ただし,GAS 相が関与する場合は,この繰り返し回数は一般に大きくなります。

 一点計算の結果(平衡値)を見るには, LIST_EQUILIBRIUM コマンドを用います。:

POLY_3:  L-E      [LIST_EQUILIBRIUM]
OUTPUT TO SCREEN OR FILE  / SCREEN /:
Options  / VWCS /:
Output from POLY_3, equilibrium number =     1,  label A0  ,   database: KIT

 Conditions:
 P=1.01325E5, N=1, T=1300, W(C)=2E-2
 DEGREES OF FREEDOM 0

 Temperature   1300.00 K (   1026.85 C),   Pressure   1.013250E+05
 Number of moles of components   1.00000E+00,   Mass in grams   5.20479E+01
 Total Gibbs energy -6.15909E+04,   Enthalpy   4.00163E+04,   Volume   5.76345E-06

 Component                 Moles           W-Fraction   Activity         Potential Ref.stat
 C                                 8.6667E-02  2.0000E-02   1.4903E-01   -2.0576E+04 SER
 FE                               9.1333E-01  9.8000E-01   2.3385E-03   -6.5483E+04 SER

 FCC_A1                                Status ENTERED     Driving force 0.0000E+00
 Moles 9.1378E-01, Mass 4.8178E+01, Volume fraction 1.0000E+00 Mass fractions:
 FE   9.83767E-01   C   1.62328E-02

 CEMENTITE                       Status ENTERED     Driving force 0.0000E+00
 Moles 8.6220E-02, Mass 3.8702E+00, Volume fraction 0.0000E+00 Mass fractions:
 FE   9.33106E-01   C   6.68943E-02

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 POLY_3:  L-E , , ,

この出力結果から設定した条件下では,FCC_A1 (オーステナイト) と CEMENTITE (セメンタイト) の二相が安定に共存し,それぞれのモル数 (原子数)はオーステナイトが 9.1378E-01 mol,セメンタイトが 8.6220E-02 mol,またオーステナイト中の C 濃度は 1.62328 mass% ということなどが分かります。 なお,同一相が二相分離や三相分離と複数の組成に分かれる場合には "FCC_A1#1","FCC_A1#2","FCC_A1#3" のように相名の後に "#1","#2","#3" と枝番を付けて区別します。

このとき表示される結果を保存したい場合は "OUTPUT TO SCREEN OR FILE / SCREEN /:" に対してデフォルトの SCREEN (画面) ではなく,ファイル名を入力します。

"Options:" は出力形式を決めるものです。 どのようなオプションがあるかは "Options:" に対して ? を入力してみましょう。:

POLY_3:  L-E      [LIST_EQUILIBRIUM]
OUTPUT TO SCREEN OR FILE  / SCREEN /:
Options  / VWCS /:  ?

 OPTIONS

    The user may select the output units and formats by optionally specifying
    a combination of the following letters:
       Fraction order:   V means VALUE ORDER
                         A means ALPHABETICAL ORDER
       Fraction type:    W means MASS FRACTION
                         X means MOLE FRACTION
       Composition:      C means only COMPOSITION
                         N means CONSTITUTION and COMPOSITION.
       Phase:            S means including only STABLE PHASES
                         P means including ALL NON-SUSPENDED PHASES.

   Default is VWCS. If the output should be in mole fraction, then give
   VXCS or just X.

Options  / VWCS /:

四つの文字 V,W,C,S はそれぞれ対で意味の異なる文字 A,X,N,P があり,"Options:" には変更したい文字のみを入力すればよい。 どのように出力されるか,いろいろ試してみましょう。 一度指定したオプションは次に変更するまでデフォルトとして有効です。  状態図の計算ではこうして得られた計算結果を初期値(出発値)として用いることができます。

2.4.3. 計算軸の設定

 次に, SET_AXIS_VARIABLE コマンドを用いて状態図計算の軸とその範囲を設定します。:

POLY_3:  S-A-V      [SET_AXIS_VARIABLE]
Axis number:  1                                   ← 第一軸を
Condition  / NONE /:  W(C)                        ← 炭素の質量分率とし,
Min value  / 0 /:                                 ← 0 から
Max value  / 1 /:  .1                             ← 0.1(10mass%C) まで
Increment  / .0025 /:                             ← 0.0025 間隔で計算する

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 POLY_3:  S-A-V  1  W(C)  0  .1 , ,

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
POLY_3: S-A-V  2  T  900  1900  25              ← 第二軸を温度とし,900 から 1900K まで 25K 間隔で計算する

"Axis number:" は 1 または 2 で,グラフの X軸,Y軸に相当します。

"Condition :" はその軸変数で, SET_CONDITION コマンドで値をセットしているものなら何でも使えます。

"Increment :" はほとんどの場合デフォルトで十分です。 むやみに変更しないことを薦めます。 この値を小さくするほど,きめ細かな状態図を計算することになりますが,それだけ計算に時間がかかります。 また逆に大きくすると,計算に要する時間は短くなりますが,相境界線が滑らかでなくなったり,計算もれを起こし易くなり,おかしな状態図を描く可能性があります。

 一度設定した軸変数を解除するためには "Condition :" に NONE を与えます。

 なお,第三軸を使う計算もあります。 (Thermo-Calc Example 19: Mapping of univariant equilibria with the liquid in Al-Cu-Si を参照)

2.4.4. 状態図の計算

 状態図の計算には,MAP コマンド (二軸計算) を使います。:

POLY_3:  MAP
 Version S mapping is selected
 INITIATED WORKSPACES ON FILE /home/xxx/RESULT.POLY3
 Generating start equilibrium   1
 Generating start equilibrium   2

       :     (中 略)

  Organizing start points

 Using ADDED start equilibria

 Generating start point   1
 Generating start point   2

       :     (中 略)

 Phase region boundary    1  at:    2.985E-02   9.100E+02
        BCC_A2
   ** CEMENTITE
 *** Buffer saved on file: /home/xxx/RESULT.POLY3
 Calculated.. 2 equilibria
 Terminating at axis limit.

 Phase region boundary    2  at:    2.985E-02   9.000E+02
        BCC_A2
   ** CEMENTITE
 Calculated. 5 equilibria

       :     (中 略)

 Phase region boundary   38  at:    8.154E-02   1.394E+03
        LIQUID
   ** CEMENTITE
 Calculated.. 28 equilibria
 Terminating at known equilibrium
 Terminating at axis limit.
 *** BUFFER SAVED ON FILE: /home/xxx/RESULT.POLY3
 CPU time for mapping 4 seconds
POLY_3:

この出力文中の

INITIATED WORKSPACES ON FILE /home/xxx/RESULT.POLY3

*** BUFFER SAVED ON FILE: /home/xxx/RESULT.POLY3

における "RESULT.POLY3" は POLY_3モジュールの作業用ファイルのデフォルト名です。 なお,コンソール・モードにおいてコンソールタブの番号が " 1 " 以外のタブではタブ番号を枝番として付けた "RESULT_nnn.POLY3" がデフォルト名となります。 例えばコンソールタブの番号が " 2 " のときは "RESULT_002.POLY3" となります。  POLY_3 モジュールでの計算結果をグラフ化するには POLY_3 のサブモジュールである POST モジュールへ行きます。 このサブモジュールへの移動には GOTO_MODULE ではなく,専用の POST コマンドを用います。:

POLY_3:  PO      [POST]
  POLY-3 POSTPROCESSOR VERSION 3.2

 Setting automatic diagram axis
POST:

2.5. POST サブモジュール

 ここでは POLY_3 モジュールでの計算結果を作図します。 プロンプトは "POST:" です。 なお,POST サブモジュールから他のモジュールへ行くには,一旦 BACK コマンドで POLY_3 モジュールに戻ってから, GOTO_MODULE コマンドを使って移動します。

2.5.1. 座標軸の設定

 まずグラフの座標軸を設定します。 POLY_3 の SET_AXIS_VARIABLE コマンドによる計算軸設定で第一軸に濃度を,第二軸に温度を取っている場合,POST モジュールに移動したときに次のメッセージが表示されます。:

Setting automatic diagram axis

この場合,計算の第一軸,第二軸がグラフの X軸, Y軸として自動的に設定されるので,そのままでよいのであれば,ここでは何もしなくてよい。  X軸を C の mass% に,Y軸を摂氏温度に変更する場合は SET_DIAGRAM_AXIS コマンドを用いて次のようにします:

POST:  S-D-A      [SET_DIAGRAM_AXIS]
AXIS ( X, Y OR Z ) :  X                            ← X軸を
VARIABLE :  W-P      [WEIGHT-PERCENT]            ← mass% で
FOR COMPONENT:  C                                  ← 炭素をとる

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 POST:  S-D-A  X  W-P  C

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
POST:  S-D-A  Y  T-C      [SET_DIAGRAM_AXIS Y TEMPERATURE-CELSIUS]
                                                   ← Y軸を摂氏温度とする

X 軸と Y 軸を入れ替えることも可能です。 また,必ずしも計算軸に設定した変数にする必要はありません。 計算で得られる情報は何でも SET_DIAGRAM_AXIS コマンドでグラフの軸に選ぶことができます。 さらに, ENTER_SYMBOL コマンドを用いることで,これらを加工した値を軸に選ぶこともできます。 さらに詳しくは HELP コマンドで確認して下さい。

2.5.2. 作図

 グラフの X 軸,Y 軸を設定したら準備は完了です。 作図は PLOT_DIAGRAM コマンドで行います。:

POST: PL      [PLOT_DIAGRAM]

 以上の操作で Fe-C 二元系状態図が "Results コンソール" タブの "Plot" サブタブに描かれます。 うまく描けなかった場合はもう一度注意深くやってみましょう。機械的にコマンドを打ち込むのではなく,各コマンドが持っている意味を理解しながら操作して行くことが大切です。

2.5.3. ファイルへの出力

 TC の作図結果は画面だけでなく,ファイルにも出力することができます。 グラフのファイル化はシステムのクリップボードを利用する方法もありますが,良質な作図結果を残すためには目的とするファイル形式を指定して保存します。

 X-Window環境下で稼働している場合は "Console Results" ウィドウのグラフ上でのマウスの右クリックで表示されるポップアップメニュー中の "Save As..." で "Files of Types" から画像ファイル形式を選び,ファイル名を指定します。 TCがサポートしている画像ファイル形式は JPG,SVG,PNG,PDF,EMF,GIF,PS です。

 ターミナル・ウィンドウ (UNIX 系) やコマンド・プロンプト (MS-Windows) 上で稼働させている TCC(Thermo-Calc Classic)の場合は次節「2.5.4 出力装置の選択」を参照してください。

2.5.4. 出力装置の選択

 X-Window 環境下で稼働している場合はこの節は無用です。

 TCをターミナル・ウィンドウ (UNIX 系) やコマンド・プロンプト (MS-Windows) 上で稼働させている TCC (Thermo-Calc Classic) の場合は,作図結果を画面以外にポストスクリプト・プリンタやプロッタなどにも出力することができます。一般的には,画面以外は直接それら装置に出力するのではなく,作図結果を一旦目的の出力装置用データに変換してファイルに保存し,このファイルを各装置に送って作図させる方法をとります。 このとき出力装置が現在使用しているコンピュータとは別のコンピュータに接続されている場合でも,そのコンピュータへ作図結果のファイルを転送すれば出力することができます。  TC がサポートしている出力装置は SET_PLOT_FORMAT コマンドで確認でき,また装置の選択もこのコマンドで行います。 ただし,表示される出力装置のすべてが現在使用しているシステムで使えるわけではありません。:

POST:  S-P-F      [SET_PLOT_FORMAT]
 CURRENT DEVICE: Tektronix 4010         ← 現在の出力装置
GRAPHIC DEVICE NUMBER  / 9 /:  ?        ← " ? " でサポート装置を表示

 AVAILABLE GRAPHIC DEVICES:

 DEVICE  1 is X-windows
 DEVICE  2 is VT240/Kermit Tek.4010 emulation

       :     (中 略)

 DEVICE  5 is Postscript portrait mode
 DEVICE  6 is Postscript landscape mode
 DEVICE  7 is HPGL plotter (HP7475 landscape A4)
 DEVICE  8 is HPGL plotter (HP7475 portrait A4)
 DEVICE  9 is Tektronix 4010

       :     (中 略)

 DEVICE  16 is Color Postscript portrait mode
 DEVICE  17 is Color Postscript landscape mode

       :     (中 略)

 DEVICE  20 is Postscript for include in LaTeX
 DEVICE  21 is Not implemented
 DEVICE  22 is TC-UNITE Driver
GRAPHIC DEVICE NUMBER  / 9 /:  1        ← 出力装置を 1 番の X-windows に変更
 CURRENT DEVICE: Tektronix 4010
 NEW DEVICE: X-windows

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 POLY_3:  S-P-F  1

 通常 Device 1 には,UNIX (Linux) 系 では "X-Window" (の画面) が割り当てられ,MS-Windows では "MS-Windows" (の画面) が割り当てられています。 UNIX 系システムでグラフを画面に出力する場合,X-Window 環境下では "1" を,また X-Window の xterm や MS-Windows の TeraTermPro など Tektronix 4010 エミュレーション・ソフトウェアから用いているときには "2" の "VT240/Kermit Tek.4010 emulation" あるいは "9" の "Tektronix 4010" を選択します。 これらの装置の場合は:

POST:  PL      [PLOT_DIAGRAM]
OUTPUT TO SCREEN OR FILE  / SCREEN /:        ← デフォルトの SCREEN のままとする

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 POLY_3:  PL  , ,

と "OUTPUT TO SCREEN OR FILE" は必ずデフォルトの "SCREEN" (画面) とします。  出力装置として "7","8" のプロッタや "5","6","16","17" の Postscript を選んでいる場合は:

POST:  PL      [PLOT_DIAGRAM]
OUTPUT TO SCREEN OR FILE  / SCREEN /:  ファイル名      ← ファイル名を指定すると,そのファイルに出力される

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 POLY_3:  PL  ファイル名

と OUTPUT TO SCREEN OR FILE" にファイル名を指定します。