5. 活量および Gibbsエネルギー-組成図の計算

 TC では,合金状態図の他にも,活量-組成図や Gibbsエネルギー-組成図なども描くことができます。 操作手順はほぼ合金状態図の場合と同じですので,ここでも主にこれまでと異なる点をモジュールごとに説明して行きます。 ここでは再び Cu-Ni 二元系を例として取り上げます。

5.1. POLY_3 モジュール

 一点計算までは状態図の計算と同じです。

 活量のように基準状態によって値が変わる相対的なものを表示する場合には,各成分の基準状態を定める必要があります。 これを行うのは SET_REFERENCE_STATE コマンドです。 このコマンドは次のようにして使います。:

POLY_3:  S-R-S      [SET_REFERENCE_STATE]
Component:  CU
Reference state:  FCC
Temperature  / * /:   ← 計算する温度における状態を基準とするときは " * " とする
Pressure  / 1E5 /:

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 POLY_3:  S-R-S  CU  FCC , , ,

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
POLY_3:  S-R-S  NI  LIQ , , ,

 この例では基準状態として Cu は FCC,Ni は LIQ を指定しています。 なお,基準状態の変更は目的の計算が完了した後でも行うことができます。

 次に計算は一点計算した温度における活量の組成変化について行いましょう。このときの計算軸の設定は第一軸だけで,第二軸は設定しません。現在の軸設定を確認するには LIST_AXIS_VARIABLE コマンドを用います。:

POLY_3:  L-A-V        [LIST_AXIS_VARIABLE]
  Axis No 1: X(NI)                  Min: 0          Max: 1           Inc: 2.5E-2
  Axis No 2: T                      Min: 300        Max: 1700        Inc: 25

 状態図計算の後ではこのように第二軸が設定されているでしょう。 このときは次のようにして不要な計算軸を解除します。:

POLY_3:  S-A-V  2  NONE      [SET_AXIS_VARIABLE  2  NONE]      ← 第二軸の設定解除

 合金状態図計算を行う際の MAP コマンド (二軸計算) に代わって,ここでは STEP コマンド (一軸計算) を用います。 このとき STEP コマンドは "Option" を聞いてきます。 これに対しては,軸変数の各点において平衡状態を計算する場合は NORMAL を,相ごとの活量や Gibbsエネルギー曲線などが必要な場合は SEPARATE_PHASES を指定します。 ここでは後者を用います。:

POLY_3:  STEP         [STEP_WITH_OPTIONS]
Option?  / NORMAL /:  SEP       [SEPARATE_PHASES]

 Phase Region for:
     LIQUID
     FCC_A1
     FCC_A1#2
 Iterations:        1,   Values:   9.500E-01
 Iterations:        2,   Values:   9.750E-01
       :     (中 略)
 Iterations:        2,   Values:   2.500E-07
 *** Buffer saved on file ***

-   -   -   -   -   -   -   -   -   -   -
→ 短縮形 POLY_3:  STEP  SEP

 この他に STEP_WITH_OPTIONS にはどのようなオプションがあるか、 "Option ? /NORMAL/:" に ? と入力して調べてみましょう。

5.2. POST サブモジュール

 この例では,X軸にモル分率あるいは質量分率などの濃度を指定します。:

POST:  S-D-A  X  M-F  NI      [SET_DIAGRAM_AXIS  X  MOLE_FRACTION  NI]

 続いて Y軸にはそれぞれの目的に応じた状態関数を指定します。 例えば Ni の活量は ACR(NI),合金系の原子 1 mol当たりの Gibbsエネルギーは GM または GMR, LIQUID 相の原子 1 mol当たりの Gibbsエネルギーは GM(LIQUID) または GMR(LIQUID) を指定します。 ここで GMGMR の "M" は原子 1 mol 当たりの値であることを示し,"R" は SET_REFERENCE_STATE で定義した基準状態からの相対値であることを意味しています。:

POST:  S-D-A  Y  ACR(NI)        [SET_DIAGRAM_AXIS  Y  ACR(NI)]
POST:  S-D-A  Y  GMR(LIQ)       [SET_DIAGRAM_AXIS  Y  GMR(LIQUID)]

 全成分の活量をいっしょに描きたいときには ACR(*) とします。 ここで * は全成分を意味します。:

POST:  S-D-A  Y  ACR(*)
COLUMN NUMBER  / * /:

 "COLUMN NUMBER : " に対しては * を入力します。 一部の成分についてだけ描きたいときには "COLUMN NUMBER : " に対して該当する成分のカラム番号の並びを入力します。 成分の並びはアルファベット順でカラム番号と対応します。:

POST:  S-D-A  Y  ACR(*)
COLUMN NUMBER  / * /:  2

 この例は "S-D-A Y ACR(NI) " としたのと同じことです。

 複数の相の Gibbsエネルギーをいっしょに描きたいときには GM(*) または GMR(*) を指定します。:

POST:  S-D-A  Y  GMR(*)
COLUMN NUMBER  / * /:

 ここも "COLUMN NUMBER : " に対して * はすべての相を意味します。 一部の相についてだけ描きたいときには該当する相のカラム番号の並びを入力します。 カラム番号は GAS:G,LIQUID:L が含まれるときには,これらがこの順で最初にきますが,その他は成分のときと同様に相の並びもアルファベット順でカラム番号が対応します。

 これらの他にもエンタルピー (HM,HMR),エントロピー (SM,SMR),キュリー温度 (TC) などあらゆる状態関数の他,ENTER_SYMBOL コマンドでユーザが定義した任意の関数も描くことができます。 ENTER_SYMBOL コマンドについては 8章【便利なコマンド】の「8.4.5 ユーザ関数を追加する」で説明します。