飯久保・嶋田研究室では、計算科学を援用した新物質探索・材料開発、さらに電子顕微鏡を使った微細組織の観察を行なっています。将来の研究者を目指す元気な学生を募集しています。また大学・企業の研究者との共同研究も積極的に行なっています。興味を持たれた方は、お気軽にご連絡ください。

 研究室は2014年にスタートし、今年で9年目を迎えています。現在は11名の学生(博士1名、修士5名、学部4年2名、学部3年3名)、准教授の嶋田先生(2023年加入)、助教の王青さん、特任助教の唐永鹏さん、テクニカルスタッフの佐々木さん、村上さんの17名です。赤嶺先生(板倉研)、辻先生(辻研)にも学生指導にお世話になっています。

構造を制御し新しい材料を創製する

 飯久保は、超伝導体の基礎研究から研究活動をスタートし、世の中のニーズに合わせながら研究対象を実用材料へとシフトさせてきました。今では、実用材料の持つ優れた機能の発現メカニズムの理解を目指しつつ、そこから得られる材料開発の指針について考えています。特に最近では、希少元素の代替を目指した「元素戦略」という考え方があります。それを推進するための、次世代基盤技術の確立を目指し、計算科学的な手法も取り入れて、機能性材料の研究をしています。現在は太陽電池・熱電材料・二次電池・鉄鋼材料などを研究対象としています。当研究室の計算科学的手法は、さまざまな材料開発に適用することができます。大学内外の実験グループや企業との共同で研究を進めています。

計算状態図

 優れた機能を持つ材料には、多くの場合、新しい物理が内在していると考えています。材料の機能向上に関するアイデアを物理学に基づいて検討することは、最も面白い部分です。当研究室では、磁石、電池材料、鉄鋼、マグネシウム合金、超伝導体などを対象として新しい材料の開発を目指しています。

 さて、新しい材料を開発しようと思うとき、そのよりどころとなるのが温度や圧力などの熱力学量と相との関係を示した状態図(相図)です。例えば純良な単相試料を必要とし、状態図を参考にして合成条件を検討するのはシンプルな利用法です。また、金属材料の分野では、積極的に第二、第三相を導入し機能の高度化を図っています。このような「物質の地図」となる状態図を作成するには、変態温度や生成エンタルピー等の実験値が重要な情報です。ところが材料を構成する元素が多成分化した現在においては、実験値のみで状態図を決定することが不可能になっています.

 このような状況に対応するために、金属組織学、合金の分野を中心にして、CALPHAD法と呼ばれる計算手法が開発され発展してきました。この手法は熱力学を基本とし、非常に広範囲の情報を限られた実験値から推測することに大きな力を発揮しています。ただし実際に有用な機能性材料は、必ずしも単純な安定相のみから構成されているわけではありません。熱処理やひずみなどの複雑な条件が揃えば、通常は存在し得ないような準安定相がしばしば顕在化し、物性に著しい影響を与えています。このため準安定相を制御して高機能化につなげたいという欲求が金属材料分野では高まっていますが、準安定相の実験値の取得は大変困難です。当研究室では、このような通常の方法で手に負えないほど実験値が乏しい状況での、状態図を構築する方法について研究を進めています。具体的には、第一原理計算という手法を使い、その結果を実験値の一部として利用することで、準安定相を含む状態図を計算によって求めることを可能にしています。第一原理計算は、原理的に絶対零度の状態しか算出することができないので、有限温度の状態を予測するには自由エネルギーを算出することが必要です。ここでは詳しくは述べませんが、最先端の計算手法を取り入れ、この方法論の確立を目指した研究をしています。

計算科学で新しい物質の発見を「予言」する

 「予言」というとあやしく感じるかもしれませんが、最新の科学技術を上手に活用すれば、理論的に新物質の予言をすることができます。鍵となる技術は「スーパーコンピュータ」を利用した計算科学です。この計算科学を使って物質中の電子や原子の状態を解き明かし、ゴミなのか、それともダイヤの原石となりうるのかを調べる研究をしています。みなさんも自分で考えた新しい仮想物質がいったいどんなものなのか、計算科学で調べてみませんか?

 材料研究の究極の目標の一つとして、「室温超伝導」というものがあります。極低温で超伝導現象が発見されて以来、超伝導転移温度は増加の一途をたどる一方ですが、室温に到達するには時間がかかりそうです。ある先生から、「目標が高すぎると不幸になる、低すぎるとバカになる」と教わりました。不幸になるのはつらいので、心の中でこっそりと、室温超伝導のことを考えています。目の前のいろんな課題に全力を注ぎながら、いつかそんな夢を現実のものにしたいと思っています。新しい物質を探索するには、上で述べた状態図などからおおまかな合成条件を絞り込み、その付近を「じゅうたん爆撃」します。これはきわめて原始的ですが現実的な方法で、多くの新物質が発見されています。しかしながら物質探索に関する深い経験が必要で、また偶然性にも左右されることは否定できません。考えている組成比に対して、未発見の新しい安定相が得られる可能性を見積もる方法があれば、候補物質の絞り込みにかかる時間の大幅な低減が見込まれ、今後の探索研究を加速できると考えています。このような安定構造を探索する新しい方法論の確立を目指しています。有望な安定相が得られる元素と組成比の候補を計算科学的に明らかにすることで、新物質発見の高効率化を目指しています。

卒業生の論文題目

2023修士田代 隼斗チタン合金のオメガ変態に関する第一原理計算
松海 壯一郎硫化銅正極の反応メカニズムに対する電子論的解釈
学部川内野 奨太第一原理計算による有機無機ペロブスカイトの欠陥準位評価
村上 生織フッ化物イオン伝導に関する第一原理計算
2022博士朱尚 萍Study for Thermodynamic Properties of Fluoride Ion Battery Cathode Materials
修士奥村 太一熱伝導率計算に適したポテンシャル作成法の調査
平塚 愛美CH3NH3SnX3(X=Cl、Br、I)の欠陥構造調査
藤原 慎太郎第一原理計算と電子顕微鏡観察に基づくフッ化物シャトル電池の熱力学安定性に関する研究
学部関口 尚夢第一原理計算による酸化物基板、有機分子吸着の構造最適化
高崎 航平第一原理計算による有機無機ペロブスカイトの組成最適化
2021修士長畑 佑輔フッ化物シャトル電池開発のための組織形成シミュレーション
早川 椋機械学習を用いた界面熱抵抗データの分析
2020修士奥村 崚ハイエントロピー合金の電子状態計算
加治 正有機無機ペロブスカイトの熱電性能に対する Fe 置換効果
学部奥村 太一第一原理に基づいたASnI3(A=MA,FA,EA,DMA)の外部量子効率計算
平塚 愛美XAFS測定によるCH3NH3SnI3の局所構造解析
2019博士河野 翔也マグネシウム合金、 ハライドペロブスカイトの構造安定性 に関する第一原理計算
山本 久美子有機無機ペロブスカイト化合物の安定性と 電子物性に関する第一原理計算
修士佐藤 史和燃料電池固体電解質BaSn0.5In0.5O3-δの安定構造
成田 昂宇二次元構造を有する有機無機ペロブスカイトの熱電特性計算
井手 敦子鉛フリー有機無機ペロブスカイト太陽電池の電子状態計算
学部宮崎 浩熙水素によるHCPマルテンサイト変態抑制に対する磁性の影響
長畑 佑輔Cu-La-F三元系計算状態図
2018修士原田 英征イオン伝導体CuPb2F6の相安定性
山﨑 純有機無機ペロブスカイトの構造安定性に対する 不純物効果
黒木 友偉軽元素による鉄鋼の特性変化に対する電子論的考察
学部奥村 崚CH3NH3SnI3の表面電子構造
吉川 龍太郎(CH3NH3)1-xCsxPbI3単結晶作成
2017博士平田 研二第一原理計算による鋼中軽元素(H,S)の挙動に関する研究
修士藤井 将史分子動力学法を用いたYb2Si2O7の原子拡散挙動に関する研究
学部大室 裕樹第一原理計算による格子熱伝導率の導出
成田 昂宇第一原理計算による熱電性能指数の評価
2016修士山本 久美子クラスター展開法を用いた新規ペロブスカイト太陽電池探索
霜山 晃一リチウムイオン電池材料の新物質探索
河野 翔也電子状態計算を用いたマグネシウム構造材料研究
鈴木 雄文銅合金のスピノーダル分解による微細組織形成
橋本 さや加電子状態計算を用いたマンガン系合金磁石開発
学部原田 英征フェーズフィールド法を用いた銅合金のスピノーダル分解挙動の研究
山﨑 純太陽電池材料Cs-X-I (X=Sn, Ga)の新物質探索と評価
2015学部赤瀬 仁Cu-Pb, Cu-Bi合金におけるスピノーダル分解の調査
藤井 将史圧力によるLi-P-S化合物の構造制御
2014学部霜山 晃一希少元素を含まない電池材料の開発を目指したLi-Ge-P-S系の合成と評価
河野 翔也分子動力学法と第一原理計算法を用いた固体電解質の物性評価